いつも、雨
「……箱……。」

思えば、要人から指輪の箱をもらうのは初めてかもしれない。

いつもどう見ても高価なモノばかりなのに、何のラッピングも箱もないそのままの状態でばかりもらってきた。


「ああ。これ。……硬度が高くないからと店主に持たされました。領子さまにさし上げる前に割れてしまっては元も子もありませんので。」

そう言って要人は自分で箱を開けて……小さいのに存在感のある指輪を取り出した。

緑色の輝くエメラルド。


「……うん。やっぱりこれぐらい大きくないと、あなたの美しさに負けてしまいますね。……よく映えている。」

要人は有無を言わさずに領子の左手の薬指にはめた。

石が大きすぎて、元からはめていた結婚指輪は、ただのアームの一部にしか見えない。


「ありがとう。」

要人の心遣いに、領子は涙ぐみそうになった。




助手席で2人の会話を聞いていた原は、内心で毒づき、舌打ちしていた。


……いくらすると思ってんだ……この女……。

ざけんな、こらぁ。


佐那子のことを考えると、要人に対しても腹立たしい。

しかし、要人から佐那子以上の金額のプレゼントを湯水のように与えられて、「ありがとう」としか言わない領子に対しては笑顔も作れないほどにムカムカしていた。


荒井は、そんな原の様子を半笑いで見ていた。





車は歩行者天国の東側で停まった。

案内されたのは、老舗呉服店だった。


……そう言えば、わたくしの着物のたとう紙には、このお店の名前が入っているわ。

いつもこちらで誂えてくれているのね。


店員に案内され、奥の部屋で手早く浴衣を着付けてもらった。

ヘアメイクまでしてもらって、領子の心が華やいだ。


「……失礼します。まあまあ、奥さま。いつもありがとうございます。……竹原さまが、帯留めと簪は、こちらで、と。」

女将らしき女性がそう言って、2つの桐箱を持ってきた。

どちらも銀色に輝く地金に、緑色の石が輝いていた。


……これもエメラルドね。

翡翠でいいのに……。




……そもそもイミテーションという概念は、領子にはなかった。
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