いつも、雨
藍染の浴衣は、百合の花が白く染め抜かれ、アクセントに葉の緑が彩られていた。

博多献上だが粋というよりは上品な帯に、銀の透かし彫りの帯留めは涼しさを演出していた。


「……少し、落ち着き過ぎでしたでしょうか。」

既婚を意識して反物を選んだが、想像以上に若く美しい領子に、女将はいくぶん後悔していた。


「いえ。素敵ですわ。ありがとうございます。……これまでも、わたくしに見立ててくださってたのですよね。」


女将は少し首を傾けるような仕草で困った顔をした。



……違ったのかしら。

じゃあ……竹原の見立てだったの?


今さらながら、ドキドキした。




要人は、浴衣で現れた領子に、目を細めた。

「……よく、お似合いですよ。」


なるほど。

色目をおさえることで、匂い立つような美しさがより引き立つ。


「ありがとう。竹原は着替えないのね。」

湿度の高い暑い夜なのに、要人は麻のジャケットすら脱いでなかった。





22時を過ぎても、鉾町は人で溢れかえっていた。

要人は、当たり前のように領子の手を引いて歩いた。

何度か人波にのまれて、手が離れてしまったが、つかず離れずガードしていた原が慌てて流される領子を引き戻した。


細い道を歩くのは諦めて、広い烏丸通に出た。



「……もみくちゃにされるって、こういうことなのね……。」

ぐったりしていても領子は美しかった。


「それでも、着崩れてらっしゃらないのはさすがですね。……飲みますか?」

要人は、地ビールのサーバーを指差した。


「そうね。いただくわ。」


テーブルも椅子もない。

道路で立ったまま、ビールを飲むなんて、まるで不良にでもなった気分。


「……美味しい。」


こんな風にいただくからかしら。

それとも……竹原と一緒だから……?



「社長。雨が降りそうです。……降られる前に車に戻られたほうが……。」

遠慮がちに原が声をかけた。


領子は、思わず夜空を見上げた。

確かに厚い雲が夜空を覆い隠していた。



……まだ……帰りたくない……。

そんな想いで、要人を見つめた。


要人もまた、領子を見た。



視線が切なく絡み合い……離れられなくなった。
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