いつも、雨
「……いや。まだ、……話をしていない。……そうやな……雨が降る前に、そこのカフェにでも入るとするか。」

呟くようにそう言ってから、要人は領子に確認した。

「よろしいですか?」

「……はい。」

領子は、ホッとしてほほ笑んだ。



原は無表情のまま小走りでカフェに先行し、2人のための座席をキープするとコーヒーを買って来てくれた。

そして自分は店の外に出てしまった。



「……とても……気の利くかたですのね。」

領子は原をそう評した。


「目端の利く優秀な男ですが、まだ若く、血気盛んでしてね。……失礼はなかったですか?」

礼を尽くすように指示してはいても、原とて人間だ。

旧知の佐那子に肩入れして、領子にいい感情を抱かないことは想像にたやすい。


ふふっ……と、領子が小さく笑った。

「竹原に似てるわ。とても、慇懃無礼なところ。気に入らないと、芝居がかって、特に丁寧に振る舞うの。」

「……なるほど。悪いお手本やったかな。」

要人は頭を掻いて苦笑した。



雨が降り出した。

慌てて、ヒトが飛び込んでくる。

満席になり、レジカウンターに行列ができた。


「タッチの差でしたね。……すぐやむといいのですが。」

「……でもずいぶんと、雨足が強いみたい。こんな時間に、夕立かしら。」


言ってるうちに、雨はさらに強まり、バケツをひっくり返したような土砂降りとなった。


「日和神楽(ひよりかぐら)が動けないようですね。」

鉾のお囃子の小さな行列が、店先で立ち往生していた。


「鉾も濡れてしまいますわね。」


首を伸ばすと、あわててビニールシートをかけているのが見えた。


雨の音が店内のBGMもざわめきもかき消すほどに強く聞こえる。



でも、要人の声だけはハッキリと聞こえた。

「ご報告があります。」

「なあに?」


無邪気な領子も、要人の表情の硬さに気づいて……思わず、背筋を伸ばした。


何かしら。

会社のこと?

……もしかして……破産したとか……?



要人は、視線を伏せて、一気に言った。


「結婚しました。妻の実家に反対されたので式や披露宴はいたしませんでした。」



……とても、領子の目を見る勇気はなかった……。


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