いつも、雨
領子は逆に驚きに見開いた目を閉じることができなかった。

ドクドクと、血が脈打つのを感じる。

ぐぐっと……変なものがこみ上げてくる……。

胸の奥が圧迫されるような……息苦しいような……。


無意識に領子は少し前屈みになり、胸を押さえていた。

ひゅーひゅーと、喉の奥から変な音がしてきた。


……過呼吸?

領子は、慌てて水を一気に飲み干した。

取り乱して泣くわけにはいかない。


ダメ。

後悔なんかしたくない。

覚悟はしてたでしょ。


いえ。

わたくしが言ったのよ。

結婚しろ、と。



領子は、飲み頃になったコーヒーも一気に煽った。

そして背中をグイッと伸ばして、うつむく要人を見下ろして言った。

「おめでとう。お祝いは、何がいいかしら。」


抑揚のない声。

精一杯の強がり。

高い高い自尊心が、要人に泣いて縋ることを阻止した。



むしろ、衝撃を受けたのは要人だった……。


恭風のように怒るとは思わなかった。

でも、泣かれるだろうと覚悟していた。


なのに……領子さまは……。


ズキズキと胸が痛むのを感じた。



何てヒトなのだろうか。

俺の知らない間に、どれほどの哀しみを乗り越えて、諦めてこられたのだろうか。

……好きなくせに……好きで好きでたまらないくせに……。


いじらしくて、せつなくて、苦しくて……要人の両目が涙で揺れた。



領子は不思議な気持ちで要人を見下ろしていた。


……わたくしの代わりに泣いてるのね……。


何故か、そんな風に思えた。


聞きたいことは、山ほどあった。


どんなヒトと結婚したの?

反対されたって、どういうこと?

もしかして、できちゃった婚なの?


でも、どれも、聞きたいけれども……聞きたくないことでもあった……。





しばらくして、要人がようやく顔を上げた。

赤い目で、要人は口を開いた。


「ありがとうございます。祝福のお言葉だけで、充分です。……先月、子供も授かりました。まだ安定期に入ってませんが。」

「……ま……あ。それは……。重ねて、おめでとう。」

ふるっと一瞬声が震えたが、持ち直した。

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