いつも、雨
自尊心。

領子を支えるのは、ただそれだけだった。



雨がまた強くなった。



これ以上は、とても耐えられそうになかった……領子ではなく、要人が。

領子は強張ってはいたものの、ほほ笑みをキープしていた。


能面のようだな。

泣いてるようにも、怒っているようにも見える。

……美しい……。


泣かないように目を閉じた要人に、領子は言った。

「まさか竹原に先を越されるとは思ってもみませんでしたわ。……わたくし……馬鹿ね。」


……どういう意味だ?


顔を上げた要人は、領子の冷たい視線の中に、やりきれなさを見て取った。


領子が結婚して2年。

夫婦仲が悪いという噂は聞いたことがない。

優しい穏やかな夫と、美しい教養高い妻……社交の場での評判も上々だ。


……だから……諦めた。

たとえ要人に未練があろうとも、領子が見ていられないほど不幸というわけでないなら……自分の出番はないと思った。



だが……俺は……また、失敗してしまったのか……。



動揺で言葉が出ない要人から、領子は目を逸らした。


「あら……。車が……。歩行者天国が終わったみたい。……帰りましょうか。」


時計を見ると、23時。


でも要人は動けなかった。


帰したくない。

離したくない。

なのに、逃げ出したいとも思っている。

相反する想いに、心も身体も引きちぎられてしまいそうだ。



「原さんがこちらを見てらっしゃるわ。……お呼びするわよ。」

そう言って、ひらひらと領子は手を振ってから、手招きして見せた。


原が無表情のまま、再び店内にやって来た。


「原さん。帰ります。車を回していただけますか。……わたくしは、タクシーでけっこうですわ。」


領子の言葉を受け、原は要人に視線で問うた。


要人は、眉根をひそめた。

「……いや。領子さまをお一人でお帰ししては、キタさんに叱られます。お送りいたします。……原。車を。」



要人の目が少し赤いことに気づいて、原は動揺した。

泣いたのか?

この女に……フラれて?

……マジか……。


原は会釈すると、小走りに店を出て行った。
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