いつも、雨
続いて、領子もすっくと立ち上がった。

そして無言で歩き出した。

……てっきりトイレにでも行くのかと思ったら……領子はそのまま店を出てしまった。

原の向かった方とは反対の方向へと消えた。


要人は慌てて自分も席を立った。

2人のコーヒーカップとトレイを返却口に置き、領子を追った。


雨が容赦なく叩きつける。

傘の波が邪魔で、領子に近づけない。

見失ってしまいそうで……要人は強引に人混みをかき分けかき分け、進んだ。


「領子さまっ!」

要人の声が聞こえた。



追う必要なんかないのに……。

子供じゃないわ。

独りで帰れる。


領子は、少し屈んでわざと人波に紛れようと隠れた。

そうして、地下鉄の駅へ降りるための入口に入った。


雨でなければ歩いてでも帰れる……と、思う。


でも、こんな夜中に1人で歩く勇気は、さすがになかった。


……だって、そういう風に、躾けられてきたんですもの……両親にというよりも……竹原に……。


くやしいけれど、自分がどれだけ甘やかされてきたかなんか、わかりすぎるほどわかっている。


だって……ほら……。

こうして、地下鉄の駅まで来ることはできても……わたくし、切符を買うお金すら持って来なかったのよ……。



領子は券売機に並ぶヒトを遠巻きに眺めて、ただ立ち尽くした。


程なく、要人がやって来た。

領子の前まで来ると、安心したらしくグッタリと両膝に手を置いて屈んだ。

両肩が荒い息で上下していた。


「……驚かせないでください……まったく……貴女というかたは……」

「子供じゃないのですから、1人で帰れますわ。……切符を、買ってください。」


強がりきれない領子に、要人はちょっと笑った。

領子はふんとそっぽを向いた。


要人は黙って、券売機の行列に並び、切符を2枚買うと1枚を領子に渡した。


「では地下鉄でお送りしましょう。……こんな日だからこの時間でも車内は混んでるはずです。お供します。」

「……。」

領子は、返事せずにスタスタと改札に向かった。


要人はすぐ後を歩きながら、秘書の原に電話をかけた。

「ああ。私だ。……すまない。地下鉄で天花寺さまにお送りすることにした。……ああ、頼む。」


電話を切ると、要人は領子に手を差し出した。


でも領子はそっぽを向いて、その手を無視した。

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