いつも、雨
「……そうですね。長居はできませんね。」

「ええ。……すぐ帰らないと。」

「そうですね……。」

「……。」

「……。」


空々しい、心のこもらない言葉は続かない。


2人はどちらからともなく、見つめ合い、頬を寄せ、……キスを交わした。


身体の中心が、甘く疼く……。

好きで、好きで、たまらない……。


もっと、もっと、もっと……と、2人は互いの舌を、唾液を貪り合った。


時間が止まってしまえばいい。

世界が滅びてしまえばいい。

このまま息絶えて死んでしまえれば……どんなに幸せだろう……。

そんな黒い誘惑すら覚えた。



飽きることない長い長い口づけは、無粋な電話の着信音で終わった。


要人(かなと)は、小さく舌打ちして……電話の電源を切ってしまった。

苦笑する要人の唇が赤く腫れてぬらっと光っていた。


……わたくしも……たぶん同じように……。


思わず領子(えりこ)は唇を手で覆って、こっそりと袂で拭った。



要人は、そっと領子を抱き寄せた。

領子もまた、要人の胸に頬を擦り付けた。



夢のように幸せなのに、この現実が自分でも信じられない。

いっそ夢ならよかったのに……。


領子は、自分の立場を思い出して、悲しくなってしまった。



「……わたくし……どうすればいいの……。」

震える声で、領子がつぶやいた。


「……どうとでも。領子さまの望みのままに。……あなたが望むなら……このまま2人で、逃げてしまいましょうか。何もかも、捨てて……。」

要人の声も、途中から震えてしまった。



冗談や挑発ではなく、本気の言葉だった。



……領子も、要人自身も、自分の現在の立場と責任を思い出すと……おいそれと再燃する愛に身を投ずることはできるものではない。


簡単に答えが出るわけがない。

わかりすぎるほどわかっている。




しばらく要人の腕の中で懐かしい香りに満たされた領子は、……これまでそうしてきたように、流れに身を任せることにした。
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