いつも、雨
「竹原。わたくし、決められないわ。……橘の家族を裏切れないし、天花寺(てんげいじ)の名を貶めることもできない。……それ以上に……竹原がわたくしのために、奥さまや……生まれてくる赤ちゃんを捨てるのは……耐えられないわ。」


要人は領子を抱く腕に力を込めた。

嫌だ……と、領子を離したくないと、言外に伝えていた。


「……ええ。わたくしも。……本当は、もう、竹原から、離れたくなくってよ。……このまま、この気持ちを、なかったことになんかできない。……どうしても、竹原が好きよ。忘れられないわ。」


要人は、少し力を緩めた。


領子は要人の背に手を回した。

離れたくない、と、全身で訴えて……それから、おもむろに身体を離した。

そして要人の目を見つめて言った。


「……答えが出るまで……わたくしに、時間をください。……いえ、考える時間じゃなくて……、竹原の時間を、わたくしにください。」


ゴクリと、要人が息を飲む音が響いた。


それって……俺と……不倫関係になるってことか?


さすがに、要人は言葉を選んだ。

「つまり、それは……領子さまの時間を、俺にくれるってことですか?……こんなふうに、2人で逢っていただけるのですか?」


領子はコクリとうなずいた。

そして、上ずった声で言った。

「いけないことだと、わかっています。すぐに、良心の呵責に耐えられなくなると思います。……誰にも知られないように細心の注意を払ってください。」



……それが、不倫だという自覚はあるらしいな……。

要人は、冷静さを保とうとしている領子を揺さぶってみた。


「もし、万が一、バレたら……俺はともかく、領子さまは、いたたまれないことになってしまいます。」


すると、領子はくすりと笑った。

「もちろんわかっていますわ。……竹原ほどではなくとも、わたくしも、わたくしは覚えてないけれど知人だとおっしゃるかたは多いのよ。竹原と2人でいるところを見られたら、もう、終わりでしょうね。……ですから、言いました。細心の注意を払ってください、と。……できますね?」


最後は真剣そのものの瞳で、領子は要人に命じていた。

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