いつも、雨
要人は、息をついた。

「……わかりました。」


ニコッと、領子は微笑んだ。

そして微笑みをキープしたまま、恐ろしいことを言った。

「では、お願いしますね。……ふふ、わたくし、地獄に堕ちるわね。」


冗談めかしていても、領子は本気で覚悟している。



……こうと決めたら頑固なんだよな……このおかたは。


要人は苦笑した。

「お供しますよ。地獄でも、煉獄でも。……領子さまが望まれるなら、心中も厭(いと)いません。」

「あら。でも、わたくし、まだ死にたくないわ。せっかく竹原にまた逢う約束ができるんですもの。……これでもう、つらいことがあっても、竹原に逢う日を指折り数えれば、我慢できるわ。」


……つらいこと……。

具体的に、何かお困りしていることがあるのだろうか。

ご夫婦仲は……本当は、うまくいっていないのだろうか……。


それ以外の、俺にできることなら、解決してさしあげたいのだが……。


……出過ぎたことだろうか……。



要人は返答に迷って、領子を抱きしめた。


領子はそれ以上、何も言わなかった。






無視できない蚊の羽音が、2人の時間を終わらせた。

すっかり雲が切れて、夏の星たちが光っていた。


領子は、要人から少し離れて、前を歩いた。

……本当は、手を繋ぎたいけれど……誰かに見られてしまったら、厄介だ。

これからのことを考えると、用心深くならざるを得ない。


領子は前方を睨み付けたまま、毅然と言った。

「連絡先は聞かないわ。」

「……わかりました。こちらには、いつまでいらっしゃいますか?」


強がる領子がいじらしくて……帰したくはなかった。


「どうかしら。まだ決めてないの。……そうだわ。お兄さまが、近いうちに、東京に戻られるそうよ。」

「……そう……ですか……。」


要人は天を仰いだ。

そちらも、放置しておくことはできないだろう。


少なくとも、ご機嫌を直していただかないと、今後の支援をしてさし上げにくくなってしまう。


「わかりました。数日中に、ご機嫌伺いに参ります。」

「ええ。そうしてさしあげて。……できたら、わたくしが京都に居るうちに、いらしてね。」

振り返って、笑顔でそう言うと、領子は少し足を速めた。



……まるで少女のように素直なおねだりに……要人の胸はときめいた。
< 201 / 666 >

この作品をシェア

pagetop