いつも、雨
領子(えりこ)を送り届けてから、天花寺(てんげいじ)邸の門を出ると、車が静かに滑り込んできた。

車から降りた秘書の原は、怒っていた。


「……すまない。心配をかけた。」

電話の電源を切ってしまったことを、要人(かなと)は素直に詫びた。


原は、淡々と報告した。

「いえ。私に謝られなくても結構です。お取り込み中だったのでしょう。……井上さんから社長に連絡がつかないと、こちらに電話がありました。奥さまがお倒れになられたので、井上さんが病院にお連れしたそうです。今夜は病院に泊まるそうですが、ご家族は明日の面会時間まで来るな、とのことでした。」


……心臓が……ギュッと握りつぶされたかと思った。

恋の再燃にのぼせ上がった要人に、これは、何の天罰だろうか。


「……病院に行ってくれ。」

来るなと言われても、放ってほけるはずがなかった。


「面会はできないそうですが。」

「かまわん。行ってくれ。」


原は、深々とお辞儀をして、要人のために車のドアを開けた。

運転手の荒井が気の毒そうに青ざめた要人を見ていた。




産婦人科病棟の個室で、佐那子は眠っていた。

点滴の針の刺さった腕が痛々しくて、とても見ていられない。

要人はすぐ横に座った。


妻の青白い顔に、懺悔したい気持ちになった。

……心から……佐那子に詫びたいと思った。

でも、領子とのことを、断念することはできそうになかった。



……すまない……。

本当に、すまない。

俺は……本当に、地獄に墜ちるな……。



領子の言葉を思い出して、要人は薄く笑った。


……妻が、俺の子を身籠もった佐那子が、こうして苦しんでいるのに……どうしても、領子さまは消えない。

心の奥の、一番大切なところに、鎮座してらっしゃるんだ。

……どうしようもないんだ……。




途中で巡回に来た看護師に帰れと怒られてしまったけれど、要人は居座り続けた。


明け方、佐那子が目を覚ました。


「……要人さん……ごめんなさい……。」


まさか、謝られるとは思わなくて……要人は、さらなる罪悪感に苛まれた。

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