いつも、雨
「いや。俺のほうこそ、すまなかった。君のしんどい時に、そばにいてやれなかった……。本当に、ごめん。」

「……そんな……しかたないわ。……それより、天花寺さまのご気分は、少しは晴れはりましたか?」


要人は返事に窮して……領子の言葉を思い出した。


「東京にお戻りになるそうだ。」

「……やっぱり、おつらいんですねえ……。お気の毒。」


ほうっとため息をつく佐那子の手を、要人はそっと握った。


「それより、君の身体や。……やはり、家事をしてくれるヒトを頼もう。がんばってくれているのはうれしいが、今は身体を休ませることを優先してほしい。……このまま入院してたほうがいいなら、そうしてほしい。」


佐那子は苦笑した。

「それはダメよ。淋しいじゃない。要人さんが帰宅した時に、私が迎えてあげなきゃ。……どうしても安静にしてんとあかんって言うなら、家で寝てるわ。」

「わかった。すぐに信頼できるヒトを探してもらうよ。……看護師さんにも常駐してもらってもいいな。」

「……さすがにそれは……過保護すぎるわぁ。」


くすくす笑う佐那子が、しんどいだろうに、とても幸せそうで……要人の頬も勝手に緩んだ。


……こんな時でも、この無邪気な笑顔で、幸せになれるのか……。

調子のイイ男だな……俺……。


どんなに自嘲しても、罪悪感でいっぱいになっても……もはや、引き返せない。



要人は朝日に目を細める佐那子の幸せそうな笑顔を守るためにも、領子の言っていた通り、細心の注意を払う必要があることを痛感していた。

同時に、領子もまた、家庭でこんな想いをすることもあるのだろう……と、同情して胸が痛んだ。



領子さま……。

ちゃんと眠れただろうか……。




ほとんど一睡もできなかった要人は、それでもその日も出勤した。

目の下に隈を作りながらも、業務をこなした。


夕方、佐那子の病院を見舞ってから、ようやく帰宅した。

天花寺家を訪れたい気持ちはやまやまだったが……身体が睡眠を求めていた。

要人は泥のように眠りに落ちた。
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