いつも、雨
領子たち一行はその日の午後、東京行きの新幹線に乗車した。


……暗い。

御通夜のように暗いと表現したいところだけど、3日前の本当のお通夜の時よりも、はるかに重苦しい。


指でつついただけで泣き出しそうな主(あるじ)の領子と、人形のように表情を失って口をつぐんでいる小さな恭匡にどんな言葉をかければいいのか見当もつかず……、キタさんは何度もため息をついていた。



車内販売が回って来た時に、キタさんに促され、領子は甥の恭匡にアイスクリームを買い与えた。

しかし恭匡は、一応お礼を言って受け取ってはくれたものの……結局一口も食べなかった。



迎えの車に乗り込むと、もう何年も領子に専従してくれている橘家の運転手の磯田が心配そうに尋ねた。

「若奥さま。ほんの数日でおやつれのようですが、……お屋敷に戻られる前に、何か……甘いものでも召し上がってからお帰りになりますか?」

「ありがとうございます。……恭匡さん。そろそろお腹もすかれたでしょう?朝から何も召し上がってらっしゃらないんですもの。……どう?何か食べたいもの、ありますか?……ケーキでも、ハンバーグでも、何でもよくってよ?」


領子の問いに、恭匡はしばし考えて……

「おうどん。」

と、京都のイントネーションで答えた。


「おうどん、ですね。わかりました。……磯田さん、どこかご存知ありませんか?」


運転手の磯田はしばし考えて、自信なさそうに首を傾げながら言った。

「うどんですか。……蕎麦屋ならいい店を知ってるんですが。うーん。まさか、若奥さまを、立ち食いにお連れするわけにもいきませんし……。」

「立ち食い?阪急うどん?……それがいい。」


まさかの恭匡の食いつきに、磯田はますます困ってしまった。

「……阪急……では、ありませんが……。」


恭匡のテンションが下がった。

「どこでもいいです。」



磯田は、あまりガチャガチャしてなさそうな和食店に車を付けた。

わざわざ店内に走り、うどんがメニューにあることを確認してから、後部座席のドアを開けて、一行をおろしてくれた。


午後4時前という変な時間なので、店内はすいていた。


恭匡は、きつねうどんを注文した。

領子はカキ氷、キタさんは茶団子を頼んだ。
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