いつも、雨
程なく、注文の品が運ばれてきた。

冷たい氷で口に中を冷やして、何となくようやく一息ついた領子は、恭匡がお箸にすら手を付けていないことに気づいた。

「やっぱり熱かった?冷めるの待ってらっしゃるの?お椀、もらいましょうか?」


しかし、恭匡は口をヘの字に結んだまま、ぷるぷると首を横に振った。


結局、恭匡は食べなかった。

もったいない……と、キタさんが食べてくれたけど、恭匡は味見すらしようとせず、ただ黙って座っていた。


お店を出てから、ようやく恭匡は言った。

「おつゆが黒くて気持ち悪い。お揚げさんも、あんなうすっぺらくて大きいの、大阪みたい。おねぎは白いし……全然違う。京都のきつねうどんが食べたいのに。……ごめんなさい。」

最後はワガママだと思ったのだろうか。

どんどん声のトーンが小さくなり……恭匡はしょんぼりと謝った。



……なるほど。

京都で生まれ育った恭匡にとって、東京の醤油の色の強いおだしでは食欲がわかなかったらしい。


「……では、京料理のお店を探さないといけませんね。」

領子のつぶやきに、恭匡はますますしょんぼりとうつむいた。



橘の家に帰宅すると、姑への挨拶もそこそこに、領子は調理場へと足を向けた。

京都の食材と味付けで夕食を準備してほしいと頼んでみたが、既に夕刻で、とても材料は揃わない。

一応、子供が好みそうな料理を幾種類か準備してくれているとのことなので、領子は渋々引き下がった。



しかし、恭匡はやはり、ほとんど箸を付けなかった。

……その場では何も言わなかったが、後から領子が聞き出したところによると、お茶も臭くて飲めないらしい。



ほとほと困り果てた領子は、恭匡を寝かしつけてから京都の天花寺邸に残った兄に電話をかけた。


「もしもし。お兄さま?領子です。……東京の食べ物も、お水も、恭匡さんのお口に合わないらしくて、何も召し上がっていただけないの。どうすれば……。」

言ってるうちに泣けてきた。

領子はぐずぐずと泣きながら、兄の指示を請うた。


『……領子さま?』


耳に飛び込んで来たのは、兄の恭風ではなく、大好きな竹原の低いイイ声だった。
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