いつも、雨
「……竹原……。」

胸がいっぱいになって、領子は言葉を失った。


『恭風さまでしたら、少し前にお出かけになりました。』

馴染みの芸妓に別れを告げに……とは、言わなかった。


「……そう……ですか……。」

涙も止まらないけれど、それ以上にドキドキして……何をどう話せばいいかわからない。


領子の動揺がダイレクトに伝わってきて、要人は逆に落ち着いて話せた。

『恭風さまに、領子さまが既に東京にお帰りになったとうかがって、ショックを受けていたのですが……貴船のお守りはまだ有効でしたね。』


びっくりした。


「まだ……持ってらっしゃるの?」

半信半疑でそう聞いた。


『……心外やな。捨てられるわけないでしょう。』

「そう。……うれしいわ。」


領子の涙が止まったらしい。

要人は少しホッとした。

『恭匡さまのことですが、……私も経験しましたから、お気持ちはよくわかります。』

「……そう言えば、そうね。竹原も、京都で生まれ育ったのに、おばあさまとご一緒にこちらに来てくださったんですものね。……でもあの頃、そんなこと、一言もおっしゃらなかったわ。」

『私の立場で、そんなこと言えませんよ。……特に、水や氷はつらかったな。』


今さらそんなことをしみじみと言う要人に、領子は少し悲しくなった。


全然、知らなかった……。

たぶん、わたくしの知らない我慢を、竹原はいくつもしていたのでしょうね……。


「ごめんなさい。知りませんでした。」


まさか領子に謝られるとは思わず、要人は少し慌てた。

『いや。些細なことですから。そんなことより、領子さまのお側に居られて、幸せでしたよ。……恭匡さまは、ただでさえお心を痛めてらっしゃるそうですから……放置できませんね。』

「……お聞きになったのね。」

領子の声のトーンが暗く沈んだ。


『詳しいことは聞いてませんが。……領子さま。明日、恭風さまと一緒に、私も東京に行きます。……領子さまも。ご実家に恭匡さまをお連れしてください。』


思ったより早く2人の時間を作れそうだ。


こんな時なのに、……甥の心と身体が心配なのに……領子の胸は期待に膨らんだ。


「……はい。」

少女に戻ったように、恥じらって、領子はようやくそれだけ返した。
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