いつも、雨
「……では、参りましょうか。」

要人は病院の裏口へと領子を追い立てる。


「え……あの……磯田さんが……」

「ええ。ですからこちらから。」


……どうあっても、領子を拉致するつもりらしい。


「わかりました。ちょっと待って。」

領子は運転手の磯田に、かなり時間がかかりそうなことを電話で伝えた。



病院の裏口には、要人が待たせておいたタクシーが待機していた。

最寄りの老舗ホテルで2人は、抱き合った。


いつもと全然違う……腫れ物を扱うように、そーっと優しく抱かれた。

慈しまれ、いたわられ、愛されて……領子は幸せでとろけてしまいそうになった。


「もっとゆっくりしたいけれど……あまり遅くなると、磯田さんが心配するかな。」

そう言いながらも、要人は領子をなかなか放そうとはしなかった。


「……そうね。早く戻らないと。」

領子も口では賛同しながらも、要人に腕を絡めたまま。


「次の診察は1ヶ月後ですか。……とても待ち切れませんね。」

「そう?……そうかもね。……我慢できなくなったら、来て。わたくしも……逢いたい……。」


素直に甘える領子がかわいくて……とても時間が足りない。

わずかな時間でも逢いたい……。


本気でそう思っているのに、逢えたら逢えたで今度はもっとずっと一緒にいたいと思ってしまう。

際限がない。

どうすれば、もっと一緒にいられるのだろう。

どうすれば、2人は幸せになれるのだろう。




翌週、領子は区役所に母子手帳をもらいに行った。


ついでに、デパートでマタニティグッズを観たい……。

外商でも充分に事足りるが、気晴らしにも運動にもなるから……と。

姑にそう言って、家を出た。



区役所では、なぜか要人とすれ違った。

驚いたけれど、要人は役所の人間と話をしていたので、声もかけなかった。


……何か、仕事の関係だろうか。

ずいぶん打ち解けているようだったわ。


気にはなったけれど、領子は領子の用事を済ませると、さっさと駐車場に戻った。



磯田は、橘家が昔からつきあいのある老舗デパートに領子を連れて行ってくれた。



デパートでふらふらしていると、ようやく要人が正面からやって来た。


「……遅かったのね。」

区役所で話し掛けてこなかったことを言外に責めた。

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