いつも、雨
要人は苦笑した。

傲慢なようで、拗ねている領子がかわいくて仕方なかった。


「お待たせいたしました。……大学で同じクラスだった男に、声をかけられて……誤魔化すのに苦労しました。」

「まあ。そうでしたの……。」


中退したとは言え、要人は日本トップの大学に在籍していた。

直接仕事で関わることがなくとも、各界に同窓の知人がいるのだろう。


「とりあえず、参りましょうか。……ここには長居しないほうがよろしいでしょう。」

「……そうですね。」


要人が踵を返す。

領子は要人のかかとを見て、少し離れて歩いた。



橘家の車が駐まっている駐車場とは別の駐車場から、車に乗り込んだ。

運転手には見覚えがあった。


「このかた……。」

「ええ。領子さまは既にご存じだったようですので。紹介しておきます。江連(えづれ)です。」


要人の言葉に、江連は恭しく頭を下げた。


「……いつもありがとうございます……と、申し上げるべきかしら。……見守ってくださっていらっしゃるのでしょう?」

領子は鷹揚にそう尋ねた。


江連は返答に窮して、要人を見た。

「まあ、そういうことでいいじゃないですか。……何か緊急の用がありましたら、彼にお申し付けください。たぶん少し離れたところにいますので。」

しれっと、要人はそう言った。



……護衛兼監視ですものね……ごくろうさま。


心の中で毒づきながらも、領子は微笑んで江連に会釈した。




今日のホテルは、近くの外資系ホテルだった。

常宿を作らず、毎回別のホテルを使うのもバレない用心なのだろう。

でも、どんなホテルでも領子にとっては大差ない。

レストランで食事するわけでなし、他の施設を使うわけでもない。

せいぜいルームサービスを利用するぐらいだが、それすら稀だ。

食べている時間がもったいない。

2人の時間は、いつもあっという間だから。



でも、領子にとっては生活に割り込む至福の時間だけど……要人は領子と過ごす時間の倍以上の時間をかけて往復してくれる。

おそらく東京での仕事や用事も入れているだろうが、それにしても頻繁だ。
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