いつも、雨
それにしても、蕾?

「……ユリの蕾の佃煮は美味しいけど……そういう意味じゃないわよね?」


領子の問いに、要人は意表を突かれ、弾けるように笑った。

快活な笑い声に、領子も釣られて笑った。


「や、失礼。……確かに、領子さまはとても美味しいけれど、そういうふうには考えてませんでしたね。」

「……。」


美味しいと言われても、領子は返事できない。


……そんなこと言ってくださるの……竹原だけだもの。


いつまでたっても身を堅くして潤わない領子の身体に、夫は今や、触れようともしない。

もともと子供を作る義務感だけの営みだった。

最近では、千歳の帰りは遅くなる一方だ。

舅は仕事が忙しいと言ってくれるが……他に相手がいるに違いない。

それが男か女かもわからないけれど。


……男……なのでしょうね……。


領子は思い出したくないことを振り払って、ユリの蕾に目を落とした。

「……まだこれから、一花咲かせろってことかしら?」

そう尋ねると、要人はふっと笑った。

「そんな謎解きのような意味はありませんよ。単に、どんなに艶やかに咲き誇った花も、領子さまには敵いませんから。……美しいとは、思いませんか?」


領子は、改めてユリの蕾の花束を見つめた。


……なるほど。

花を咲かせてなくても、瑞々しい緑の葉も、白っぽく色の抜けつつある蕾も、美しいと思えた。


「……美しいわ。それに……咲くのが楽しみだわ。」

心からそう言ったら、要人も満足そうに頷いた。





持ち帰ったユリは、翌日、一輪だけ咲いた。

それから連日のように、少しずつ花をほころばせた。

甘い香りも、清らかな白い花も、領子の心を慰めた。





安定期に入ると、領子は習い事や、社交の場での姑のお供といった日常に戻った。

外出が増えるのを待っていたかのように、要人も足繁く通ってきた。

目に見えて張り出してきたお腹を要人に見せることには抵抗があった。

しかしむしろ要人は、慈しんでくれた。


お腹の子ごと愛して包み込んでくれている……。

領子はそんな幸せな錯覚をした。




穏やかな日々の終焉は、前触れもなくやってきた。
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