いつも、雨
その日は雨だった。


お茶のお稽古に行くと、なぜか茶室に要人がいた。

驚いたけれど、お家元の手前、当たり障りなく挨拶を交わして、要人の隣に座った。

お家元が賓客らしき要人に、お薄をたてた。

ついでに、領子にもたててくださった。


……同じお抹茶を使っているのに、どうしてこんなにも味が違うのだろう。

やはりお家元のたてたお薄は、おいしかった。



続いて、領子がお濃茶をたてた。

お家元と要人が回し飲みするのを不思議な気持ちで眺めた。


……完璧。

竹原って、本当に何でもできるのよねえ。

何だかずるいわ。


要人の美しい所作を満足げに見届けて、領子は後仕舞いを始めた。




当たり前のように、要人は領子のお稽古が終わるタイミングでお家元に辞去した。

「車で来てますので、最寄り駅までお送りいたしますよ。」

お家元の前で、しれっと要人は言った。

「……ありがとうございます。」

領子は、素直に従った。



要人の黒い傘に入れて欲しかったけれど……、領子は自分の傘を開いた。

2つの傘が縦に並んで敷石を歩く。


……象徴的だわ。

わたくしたち……横に並ぶことも、同じ傘に入ることもできない……。


せっかく逢えたのに、領子は淋しくなった。




運転手の磯田に迎えは要らないと電話をかけてから、要人の車に乗り込んだ。

珍しく、要人は無言だった。

お茶室に居た時と同じ、真面目くさった神妙な顔付き。


……お仕事、大変なのかしら。

それにしても……素敵……。


お腹にそっと手を宛がって、領子は要人を見つめていた。




ホテルのお部屋に入ると、要人は領子をソファに座らせた。

そして自分は対面のソファに座った。


……?

いつもなら、一気に距離がゼロになるはずのシチュエーションで、このキープされた距離感はいったい……何?


領子は不満より不思議な気持ちで要人の顔を覗き込んだ。

だが、要人は両手を膝の上で組んで、額を落とした。


……落ち込んでるの?

どうしたの?


「……竹原?」

領子に呼ばれて、要人は顔を上げた。

やるせない表情は、いつもよりやつれて見えて……領子はドキッとした。


「領子さま。……報告があります。」

どう見ても、悪い報告のようだ。
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