いつも、雨
領子は、敢えてほほ笑んで見せた。

「なぁに?事業がうまくいってないの?」


「……いえ。そちらは、順調過ぎるほど順調です。」

要人はニコリともしなかった。


「では……わたくし以外の愛人にも、子供ができたとか?」

冗談のつもりだった。


でも要人は、ピクリと反応して……ほうっとため息をついた。


……え?

本当に?


領子の頬がひくりと引きつった。



要人は、首を横に振った。



……あ……違うの……よかった……。

さすがに、おもしろくない事態だものね。

じゃあいったい、何?



要人は、顔を上げて領子をじっと見つめて言った。

「家内が妊娠しました。」


領子の頭が真っ白になった。


目を見開いたまま固まってしまった領子をとても見てられず、要人は再び頭を下げた。


ドッドッドッドッ……と、血が脈打っていることを感じて……、我に返った領子は背筋を伸ばした。


そして、要人の頭を見下ろして言った。

「おめでとう。では、わたくしのこのお腹の子と同い年ということね。……仲良くなれるといいわね。」


精一杯の虚勢だった。

それがわかりすぎるほどわかって……要人の胸がズキズキと痛んだ。


……こういうとき、領子が怒るなり、泣くなり、感情をぶつけてくれないことは……これまでのつきあいで嫌というほどわかっていた。

でも、それは悲しくないから、ではなくて……自分を保つために、愛する要人すら心から排除するのだ。

孤高でなくてはプライドを保てない。

そんな領子がいじらしくて、かわいそうで、悲しくて……代わりに、要人が泣いてしまう。



前にもこんなことがあったわ。

……泣きたいのに泣けないわたくしのために、竹原が泣くのね……。



領子は、ため息をついた。

「馬鹿ね。泣くことじゃなくてよ。……わたくしたち、お互いに操を立てるような間柄じゃないでしょう?」


言外に、自分も夫との性交渉がある振りをした。


……本当は、今となっては一切なくなってしまったのだけど……領子の女としての自尊心がそんなことを言わせた。


さすがに要人にはそこまではわからない……はずなのだが……。



要人は両膝に手をついて、深々と頭を下げた。
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