いつも、雨
それから、珍しく一緒に浴槽に浸かった。

領子は、要人の胸に頬を擦り付けて……泣いた。

要人は、領子の気が済むまで、抱きしめて背中をさすり続けた。

いっぱい泣いて、泣いて、泣いて……涙が出尽くしたのか、それっきり、領子は泣かなくなった。



泣き腫らしたまぶたでの帰宅は気恥ずかしかったけれど、体調が悪いので夕食はいらない……と、キタさんに言ってもらい、誰とも顔を合わせずに眠った。

汚い感情は、すべて雨が流してくれた。




翌日、目元も心も、まだ元通りというわけにはいなかったけれど……領子は気丈に振る舞った。

キタさんが、いつも以上に世話を焼いてくれた。

「……アンクレット……ですか?珍しいですね。」

「は?」

不意の質問に、領子は自分の足を見た。

細い細い銀色の鎖が足首に巻かれていた。


「……なに?これ。……いつ……。」

領子は額を抑えて、しばし考えた。


夕べ、帰宅して、足袋を脱いだときに、どうして気づかなかったのかしら。

……お風呂の中で?

それとも……?


かさばらない、重さも感じない……けど、これって、プラチナよね?

ご丁寧に、留め金には小さなダイヤが光っていた。


「まるで囚人の足枷ね。」

そうは言うものの、領子は取ろうとはしなかった。

密やかな束縛に、安心感すら覚えた。


それにしても……。


冷静に考えてみれば、いよいよ逃れられない事態に陥ったようだ。


わたくしは、いいわ。

竹原は、わたくしには、隠さずに奥さまの妊娠を報告した。

そりゃあ複雑な気持ちだけど……竹原は竹原なりの誠意で対応してくれているもの。


でも、奥さまは……。

何も知らされないまま、なのよね。

もし万が一後からお知りになったら……。


想像するだけで、胸が痛い。



領子は、決意を新たにした。

やっぱり2人のことは、隠し通さなければいけない。

誰にも知られてはいけない。


……竹原が、何て言ってくれても……わたくしは、竹原を奥さまと義人くんから、奪うことはできないもの。

それなら絶対にバレないようにしなきゃ。


領子は無意識にお腹に手を宛がった。

大丈夫。

独りじゃないわ。

わたくしには、あなたがいる。

あなたには、わたくしがいるわ。

……ね……。
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