いつも、雨
「ええ。ですから、せめて誕生の瞬間だけでも……」

「いや!絶対いや!見られたくない!」

領子は意固地に拒絶した。


出産時に排泄物も出るかもしれないとか、会陰切開とか、血まみれの赤ちゃんとか……絶対に見られたくない。


「……第一、さすがに出産時には、主人も病院に来てくださるはずよ。竹原が居られるわけないでしょう?」


でも、要人は失笑した。

「今さら、何をおっしゃるのかと思えば。……病院のほうは問題ありません。領子さまのご家族とは一切顔を合わせることはありません。……それでも気になるというなら、そうですね……また、ご主人には、海外出張でもしていただきましょうか。」


大人げない要人のことばに、領子は呆れた。

「最低。本当に、酷いヒト。」


要人の顔が、歪んだ。

「……ええ。自分でもそう思います。最低の男です。でもね、俺をこんな男にしたのは、貴女ですよ。領子さま。……貴女さえ、あの時、俺を選んでくださったら……こんな……身を裂かれるような想いを何度も何度もすることはなかった。お互いにね。」

「……そんなこと、今さら言われても……。」

領子は、両腕でお腹を抱えるようにうずくまった。


泣きそう。

泣けないけど。



足首のアンクレットに触れて、少し気持ちが落ち着いてきた。


「……条件があります。」

震える声で、領子は言った。


「何なりと。」

恭しい身振りをしてみせた要人を、領子は睨み付けて言った。


「絶対に!見ないでください。わたくしの枕元から決して動かないで。両手を放しませんから。それでもよくって?」

「もちろんです。ありがとうございます。」

要人は満足そうに笑った。


……まったく……もう。


何だかんだ言っても、ずっとそばにいてくれるなら、こんなに心強いことはない。

領子だって、本当はずっと要人にそばにいてほしい。

その気持ちに嘘いつわりはない。


もしかしたら、素直になれない、意地っ張りな領子のために、要人は一肌脱いでくれたのかもしれない。


……喰えない男。


領子は、要人にもたれかかって、ほーっと息をついた。

腰をさすってもらうと、とても気持ちよくて、目がとろーんとしてきた。


こんなにも穏やかで幸せな時間が永遠ならいいのに……。


領子にとっても要人にとっても、2人で過ごす時間こそが至上だった。
< 240 / 666 >

この作品をシェア

pagetop