いつも、雨
予定日の一週間前に、領子は実家に帰った。

予想以上に、兄は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたし、甥の恭匡も、手伝ってくれた。

キタさんは経産婦だし、要人が天花寺家に送り込んだ家政婦もまた子沢山だったらしい。

不自由も不安もないつかの間の静かな日々。


静寂とこころの平安を乱したのは、要人の来訪だった。



予定日の4日前の午後、要人はたくさんの手土産を携えてやってきた。

明日の仕事のために今夜はホテルに宿泊するというので、恭風は強引にホテルをキャンセルさせて、天花寺家に泊まらせた。

恭風と要人は、夕食時から上機嫌で酒を酌み交わした。



「何しに来たのよ!」

兄が完全に酔いつぶれて寝てしまうのを待って、領子は要人にそう食ってかかった。


「何って、ご機嫌伺いですよ。いつもの。……東京に来る度に、こちらには顔を出してますので。……領子さまにも、久しぶりに、お会いできて、うれしいです。」

いけしゃあしゃあとそう言って、要人はニッコリ笑った。


先週の検診の時に会ったばかりなのに。


「やめてよ。」


……そんな笑顔見せないで。

心が……竹原に向かって一気に放出してしまう……。


「やめませんよ。……領子さまが秘めた感情をぶつけられるのは、俺だけですからね。」

要人も、酔っているらしい。


「それは……竹原が、わたくしを翻弄するから……。わざわざ、かき乱しに来てるみたい。」


ぷいっと、横を向いてそう言ったけど、無駄だった。


要人は、肩を揺らした。

「その通り。……ほっとくと、貴女はまたお人形になってしまわれるでしょう?……嫌なんですよ。俺は、領子さまには、ワガママなお姫さまでいていただきたいんですよ。」

「……もう、そんな歳じゃないわ……。」


もうすぐ子供を産むのに……。


でも、要人は一笑に付した。

「歳なんか、関係ありませんよ。領子さまは、一生、俺の大切なお姫さまです。」


……ダメ……。

どうしてそんなこと、言うの?

がんばりたいのに……この子の母親として、独りでがんばっていきたいのに……竹原は、わたくしをいつまでも自立させないつもりなの?
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