いつも、雨
「恥ずかしいから、やめて。……わたくし、やすみますわ。」

「では、俺も。……後で、お訪ねしますよ。」

要人はわざわざそう付け加えて、また笑った。


領子はくやしそうに要人を睨みつけて……早足で自室ヘ戻った。


ドキドキする。

本当に、ここに、来る気かしら。

どうしよう……。

とりあえず、シャワーを浴びなきゃ。


……くやしいけれど、領子には要人を拒絶することはできないだろう。

それどころか、こうして……身支度を整えて期待して待ってしまう。


なんてあさましい女。

臨月なのに……。



領子は心と体のバランスがとれず、悶々と待った。



日付が変わってしばらくたってから、音もなく障子が開いた。

月灯りを背に、要人が忍び込んできた。

領子は、身体を起こした。

と、その時だった。


じんわりと生暖かいものが、領子の身体から漏れ出できた。


これは……。


「竹原。……どうしよう……破水したかもしれないわ。」

領子が涙目で訴えた。


さすがに要人は驚いた。

が、心が弾んだ。


親孝行な子だ。

俺が来たタイミングで破水するとは。


「大丈夫ですよ。落ち着いてください。……キタさんを呼びます。」


要人は、領子を一瞬だけぎゅーっと抱きしめて、それから別棟に眠るキタさんを起こしに行った。

その足で、恭風にも声をかけたが、酒がかなり残っているらしい。


「まあ、初産やから時間かかるやろ。朝になってから、行くわ。」

「そうですね。では、私がキタさんと病院にお連れします。……橘さまにも、朝になってから、ご連絡してさしあげてください。」


……領子さまの旦那を出張させるのは、さすがにもう無理かな。

まあ、いい。

立ち会うのは、俺だ。


要人は、病院に電話をかけてから、自分のところの車に領子とキタさんを乗せた。


思ったより陣痛の間隔が短い。

5分……いや、4分?

「本陣痛のようですね。……既に、前触れがあったのですか?」


要人に尋ねられ、領子は首を傾げた。


「わからないわ。しょっちゅう痛んだり、中から蹴られたり、疼いたりしてたもの。でも、これは違う!痛い……痛いわ……ねえや……痛い……。」


前駆陣痛と呼ばれる陣痛前の一連の痛みを、領子ははっきりとは自覚しなかった。

突然の破水と激しい痛みが襲ってきたことで、領子は子供のようにキタさんにしがみついた。


キタさんは一生懸命、領子の腰をさすり続けた。

本当は、要人が代わりたかったが……助手席から後部座席の2人を見守った。
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