いつも、雨
駅前で電車に乗らず、タクシーに乗り込むと、くしゃみが出た。


……本当に、風邪を引いてしまうかもしれない。

まずいな……。

できたら、途中でシャワーを浴びたいんだが……本格的に風邪になるとヤバい。


要人は、おとなしく始発の新幹線を待ち、ドラッグストアで葛根湯を買った。

明日のためにも、風邪で寝込むわけにはいかなかった。



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領子が目覚めたのは、お昼前。

要人はとっくに京都の本社に出社していた。

ぼーっとしていた頭と視界が、だんだんクリアーになっていく。

「……竹原?」

無意識に要人を呼んで、領子は首を傾げた。


夕べのアレは……夢?

……じゃないわよね?

ん~~~?


枕元には、「お土産」らしきものはない。

キョロキョロと部屋を見渡しても、それっぽい形跡も見当たらない。


……あ。

あの万年筆、知ってる。

何の装飾もないシンプルな黒のペリカンM600。


竹原のだわ!

やっぱり、本当に来てくれたのね。



領子はベッドから跳ね起きると、文机へと突進した。

万年筆を大切に抱き、便箋の表紙をめくった。


ブルーブラックの文字は、どことなくお兄さまの手蹟に似ていて……。

「明日……。」


領子の瞳から、大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちた。

ポタポタと便箋に涙が落ち、せっかくの要人の文字が少しだけ滲んでしまった。



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長い1日になってしまった。

秘書の原は、2日分の仕事をうまく振り分けて、翌日要人が後顧の憂いなく丸一日東京に行けるように調整してくれた。

おかげでその日の帰宅はずいぶん遅くなってしまった。

ぐったりして帰宅した要人を、妻の佐那子はいつも通り、優しく温かく迎えてくれた。

息子の義人は既に寝ていた。


「夕べから、大変でしたね。明日も朝から出張ですって?……原さんも、心配していたわ。」

「……ああ。君まで……すまないね。でも、お腹の子にも障るだろうから、寝ていてくれていいのに。」


むしろ、先に寝ていてほしかった……。

そうすれば、多少は罪悪感が軽減されるだろうに。


しかし佐那子は、屈託のない笑顔でほほ笑んだ。

「だって、要人さんに逢いたかったんだもん。」

「……毎日、逢うてるやん。」

苦笑して、要人は答えた。
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