いつも、雨
「ええ。……出産でおやつれになられたとおうかがいしましたので、豆餅やよもぎ餅と、レモンの葛湯を……」


恭匡の目がキラキラと輝いた。


要人は苦笑した。

「もちろん、恭匡さまの分も、恭風さまの分もございますよ。いっぱい召し上がってくださいね。」


超ご機嫌さんの恭匡の手を引いて、要人は天花寺家の門をくぐった。


玄関先まで、恭風が迎えに出てきた。

「竹原。よぉ来たなあ。まあ、あがりよし。」

「こんにちは。恭風さま。お邪魔します。」



居間に通されてすぐ、キタさんに手を引かれて領子がやって来た。

やはりかなりやつれていたが、表情は穏やかだ。


……落ち着かれたらしい。


「ごきげんよう、竹原。先日は、お祝いを送ってくださって、ありがとうございました。」


取り澄ました表情と声に、要人のみならず、キタさんも、恭風も、ほくそ笑んだ。


要人は、恭しく頭を下げて、薄笑いを隠した。

「ご無沙汰いたしております。領子さま。こちらこそ、ご丁寧に、お心遣いをありがとうございました。」


そうして、心配そうな表情を貼り付けて顔を上げた。


「お加減はいかがですか?領子さまも……百合子さまも……。」


領子の眉毛がぴくりと上がった。

「百合子は健やかだと聞いています。……わたくしも、もう大丈夫ですわ。」

顎を上げて強がる領子が、かわいくて愛しい。


恭風が呆れたように口を挟んだ。

「よぉ言うわ。あんた、昨日まで全然あかなんだやんか。……ワガママなこっちゃ。」


領子は恭風をちょっと睨んだ。

「もう。お兄さま、大袈裟ですわ。ご心配なく。明日には帰りますわ。……百合子のことも放っておけませんし。」


……意地を張らなくても、もう少し……せめて、体力が戻るまで、ご実家にいらっしゃればいいのに……。



そうは言うものの、領子自身も、百合子のことが本当に心配なのだろう。




領子は、早速、キタさんに荷造りを頼んだ。

折を見て、恭風もまた、不自然に席をはずした。

居間で2人きりになると、領子はおもむろに要人の万年筆を出した。

「お忘れ物ですわ。……それとも……お土産にいただいて、よろしかったかしら?」

ふっ……と、要人はほほ笑んだ。
< 256 / 666 >

この作品をシェア

pagetop