いつも、雨
半年後、要人から娘が生まれた報告を受けた。


「かわいい名前ね。由未(ゆみ)ちゃん。」

娘の百合子と同い年だけど、腹違いの妹ということになる。

領子は、なぜか、姪か、いとこの子ぐらいの感覚を抱いていた。


おおらかな領子の反応に、要人は胸をなで下ろした。

「本当は……家内は、百合子と名付けたかったそうですよ。……百合子さまの内祝が届いたときに、そうぼやいてました。」


「まあ……。そうでしたの。何だか……申し訳ないわ……。」


図らずも、夫の要人のみならず、娘の名前まで、領子は佐那子から横取りしてしまったらしい。


しょんぼりする領子を、要人はふわりと抱きしめた。

「大丈夫ですよ。その場で息子が、ゆみ、ゆみと主張し始め、すぐに家内も乗り気になりました。……お気になさらずに。」


要人の腕の中に居るのはうれしい。


でも……わたくしに触れながら、家庭の話をされると……ちょっと複雑な気持ちになってしまうわ。


領子は、多少ひねくれた。

「……気にするわよ。てゆーか、竹原が悪いのよ。わたくしだけじゃなく、奥さまにも百合の花を贈ってらしたんでしょう!?」


いわれのない言いがかりだ。


要人は苦笑した。

「領子さまにしか贈ってませんよ。……鈴蘭の、異名が『谷間のユリ』というそうです。」


ドキッとした。


鈴蘭……そう……。


「奥さま、鈴蘭がお好きですものね。……そうでしたか。」

領子は、時折、要人の身の回りからほのかに感じる鈴蘭の香水をよく知っていた。


移り香の自覚のない要人は、領子が佐那子の何を知っているのか……気にならないと言えば嘘になる。

でも、要人は意識して話題を変えた。

「そうそう。これからこちらに来ることが増えますよ。本社は移しませんが新社屋を建てることになりました。」

「まあ!」


領子の目がキラキラと輝くのを見て、要人は満足げにうなずいた。


「本社移転もしくは、東京と京都の二社に分けることを勧められていたのですが……やめました。」

ふふっと、領子が笑った。

「竹原は何でも自分でやりたいヒトですものね。……よろしいんじゃありませんか?トップダウンのワンマン社長で。」
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