いつも、雨
考えあぐねているうちに、百合子は入園式を迎えた。

真新しい、ぶかぶかの制服を身につけた百合子は、かわいくてかわいくて……千秋の目から涙がこぼれ落ちた。

もう……孫でなかったとしてもかまわないとすら思えた。

いや。

血液検査も、DNA鑑定も、何かの間違いだということにしてしまいたかった。




実際、千秋はしばらくの間、何も言わなかった。

領子の様子を観察していたが、自分たち舅姑に本当の親以上に尽くしてくれる。


……まあ、夫であるはずの千歳に対しては、多少……他人行儀な気もするが……それでも文句の付けようのなく、世話をしてくれている。

やはり完璧な嫁だ。


心にしこりはあるものの、千秋は事を荒立てる必要はないと思い込もうとした。





しかし領子が幼稚園に入ってちょうど1年後。

千秋は、家族に内緒で賃貸契約しているホテルのロビーで領子を見かけた。


……食事か、何かの会合に来たのだろう。


自分がココにいる理由を説明しづらくて、千秋は声をかけずに百合子の姿を遠巻きに眺めていた。

無論、千秋は浮気や悪いことをしているわけではない。

単に完全に独りきりになれる場所が欲しいだけだ。

気位の高い妻とは何かとすれ違いが多く、心が通わなくなってしまった。


……それに百合子が生まれてからは、妻の溺愛ぶりは目に余るものがあった。

不思議なことに、百合子は妻の悪いところばかり吸収してしまっている気がする。

尊大不遜な妻ではなく、領子の毅然としつつもたおやかな女性らしさを身につけてくれるといいのだが……。



後ろ姿も美しい領子に感嘆していたが……千秋は気づいた。



どこに行くんだ?


このホテルには客室以外にコンベンションホールやいくつものレストラン、ショッピングアーケードがある。

しかし、領子の向かったエレベーターでは客室にしか行けない。


……まさか、自分と同じように、隠れ家を持っている……というわけではないだろう。


心が嫌な感じにざわめく。

ずっと考えないようにしていた疑問が、重く存在感を増す。


……浮気……?

やはり、嫁には他に男がいるのか?


千秋は、居ても立ってもいられず、領子の消えたエレベーターホールに向かった。
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