いつも、雨
領子は、こんな時なのに、少し笑ってしまった。


……馬鹿ね……舌打ちなんかして……。

でも、竹原には関係ないことよ。

責任を取るのも、糾弾されるのも、わたくしだけ。


領子の背筋が伸びた。



美しい後ろ姿を、要人は恨めし気に見送った。

2人の行き先を確認してから、領子に付けている江連に探りを入れさせた。

要人自身は、駐車場で待機することにした。


本当はすぐに京都に戻る予定だった。

しかしとても帰れる心情ではない。


要人は、東京社屋で待っている秘書の原に電話をかけて、今夜の予定のキャンセルを頼んだ。

『……また、ですか。わかりました。宿泊されますか?』

呆れ声の原に、要人は言った。

「可能なら。……無理なら、一旦帰って、明日またこっちに来る。」


こうなったら、何をどう言っても無駄だろう。

原は、要人の領子に対する過剰過ぎる執着心を、もうとっくに嫌というほど思い知らされていた。

『……わかりました。調整してみます。折り返しご連絡いたしますので、少しお待ちください。ホテルは、そのままそちらに?』

「いや。チェックアウトした。……まだ私もよくわからないが、どうやら、知られてはいけないヒトに見られたようだ。……ホテルによくよく言っておいてくれ。」

『そうですか。ご愁傷様でした。』


……それでも、あのご夫人と別れるという選択肢は社長にはない……。


天秤に掛けるまでもなく、会社も妻子も領子のために捨ててしまうだろう。


原にできることは、佐那子がつゆほども疑わないように、完璧な理由とアリバイを作ることだけだった。





領子は、千秋に何度聞かれても、要人のことは漏らさなかった。

「言えません。」

「申し訳ありません。」

そう繰り返す頑なな嫁に、さすがの千秋も苛立った。

「言いたくなければ、それでいい。興信所で調べてもらう。……私は橘家の家長として、その男と話をしなければいけない。……わかるね?領子さん。その男と、もう逢ってはいけない。スッパリ別れなさい。……君にも監視を付けるからね。」


「……お義父さま……。」

領子は絶望的な気持ちになった。
< 268 / 666 >

この作品をシェア

pagetop