いつも、雨
竹原に、もう、逢えない?

そんなこと……できるわけがない


「お願いします。……どうか……追い出してください。離縁してください。百合子と2人で、出ていきます。」

領子は、そう懇願した。


しかし、千秋は首を横に振った。

「領子さんも、百合子も、橘家の人間だ。出ていくことは、許さんよ。男と手を切って、今まで通り、千歳に尽くしてやってくれたら、それでいいから。」


領子の顔が歪んだ。

胸の奥から、嫌な震えがこみ上げてきた。


血を吐くように、領子は嘆いた。

「……お義父さまは、お優しすぎます……でも……わたくしには……むごすぎます……。」


千秋は悲しそうに、ため息をついた。

「どうあっても、……その男と、別れる気はないのかね。……私が、こうして、頼んでも……ダメかい?」


「……申し訳ありません。」

領子は深々と頭を下げた。


千秋は額を抑えて、首を横に振った。

「いいや。ダメだ。……どうしてもと言うなら……百合子は置いて、君だけ出ていくといい。ただし、離婚はダメだ。好きに失踪してくれ。」

「……そんな……。」


百合子が家族の愛を一身に受けていることはわかっている。

しかしそれはあくまで、橘家の総領娘だから……そのはずだった。

なのに、千歳以外の男の血を引く百合子を、どうして追い出そうとしないのか。


「2人とも出て行け……とでも言うと思ったかね?」

千秋は鼻で笑ってそう尋ねた。


領子は渋々うなずいた。


「……それでは、君と相手の男の思うツボだろう?……いや……言いたがらないところをみると、相手の男も、既婚者か。……どうする気だ?」

千秋の顔が怖いほどに真面目になった。

「君が百合子を置いて、男のところに身を寄せて幸せになるというなら、それでいい。……しかし妾(めかけ)にしかしてもらえないのなら、そんな男、やめなさい。……何もなかったことにして、うちにいなさい。」


……ああ……。

どこまで、このおかたは……お優しいのだろう……。

こんなわたくしを……、わたくしを案じてくださる……。


領子は泣かないように、鼻をすすった。
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