いつも、雨
ポロポロと大きな涙をこぼす領子に、千秋は静かに言った。

「とにかく、早まったことはしないように。領子さんも、百合子も、家族だ。それは何も変わらない。……本当に悪いと思っているなら、千歳にも……妻にも隠し通してくれ。」


領子はこっくりとうなずいた。


……わたくしには……何もできない……。

お義父さまのお優しさに甘えることしか……できないわ……。



千秋は安堵したらしく、ほっと息をついて……離れたところに居てくれたバーテンダーに片手を上げた。

「ブッカーズをストレートで。……領子さんは……」

「……では、同じものを、ソーダ割りにしてください。」

領子がそうお願いすると、バーテンダーは恭しくうなずいた。


知らないお酒だったが、わざわざストレートと舅が指示したので、水やソーダで割ることもあるのだろう。



「領子さんと飲むのは、初めてだね。家でも飲まないが。……飲めないことはないのだろう?」

そう聞かれて、領子は首を傾げた。

「美味しいとは思います。でも、強くはないと思います。普通に酔いますので。……だから、あまり飲まないようにしていました。みっともないところはお見せしたくありませんから。」


すると、千秋は苦笑した。

「……家では、酔いつぶれてくれてもかまわないんだよ。……と、私が言っても、あまり説得力ないか。」


千秋自身、自宅で深酔いすることはない。

出張先のホテルや、このホテルの隠れ家でしか、酔うまで飲まない。


こんな風に、強い酒を、しかも嫁と飲むことになるとは思わなかった。

「……私達は、似ているかもしれないね。」


千秋の言葉がとても悲しくて、領子はまた泣きそうになった。


「いっそ感情をぶつけてしまえれば、お互いにもっと理解し合えるのだろうか……。……今さら、そんなこと、できないか……。とても……本当に、心から大事に想っているんだけどね。」


いつも穏やかな舅は、姑に対しても、常に人格者であろうとしているということだろうか。



では、お義父さまは……どこで気持ちを発散されるのかしら。


わたくしには、竹原がいる。

竹原に抱かれている時は、甘えることも、泣くことも、叫ぶこともできる。

たぶん、それで心のバランスを保てているのだと思う。
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