いつも、雨
「家内の父の訃報ですね?……恥ずかしながら、付き合いがないので、俺も新聞で知りました。明日の通夜に一般弔問客として会葬するつもりですが……追い返されるかもしれませんね。」


「まあ……なんて、おいたわしい……。佐那子さま……でしたね。おつらいですね。……わたくしのことは、本当に、もう大丈夫ですから……奥さまを、おそばで支えてさしあげてください。」

領子は、うっすらと涙さえ浮かべて、そんなことを言った。


父を亡くした悲しみと心細さを知っているがゆえの言葉だろうが……要人は苛立った。


言われなくても、そうせざるを得ない状況だ。

わかってるさ。

観念してる。

でも、それを、あなたにだけは言われたくない。

むしろ、俺は……あなたに……自分のそばにいろ、と……妻子を捨てろと言っていただきたいのに……。


勝手すぎることを自覚しているので、要人は何も言わなかった。

ただ、むっつりして……領子の髪をわざとぐしゃぐしゃになるように乱暴に撫でた。





「この機会に、家内の母親に孫たちを引き会わせようと思います。」

別れ際に要人がそっけなくそう言ったのを、領子は不思議な気持ちで聞いていた。


実の孫でもない百合子をかわいがる橘の姑舅と、何て対照的なのだろう……と。

……大丈夫。

うまく、いくわ。

実の孫ですもの。

可愛くないはずがないわ。



家も両親も捨てて、要人と結婚した佐那子に対して、領子は羨ましい……を通り越して、尊敬に近い想いを抱いていた。

自分にはとてもできなかったことを、やり遂げたヒト。


あんなにも柔らかい優しい雰囲気なのに、芯は強いのね……。

本当に、すばらしい……素敵な女性……。


竹原に……相応しいわ……。


チクリと、胸の奥が痛んだけれど、領子は取り澄ましておくびにも出さなかった。




……かわいくない……いや……無理してらっしゃるのを、かわいいと思うべきか……。

まったく……意地っ張りなおかただ。

……早く、誰に気がねすることなく、俺に文句やわがままを言えるようにして差し上げないとな……。


要人は、妻の涙を記憶の彼方に押しやり、領子に深く深く口付けた。



次に逢える日を約束することはできなかったが……来週にでも、何とか調整してもらおう。

また、有能な秘書に怒られるな……。
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