いつも、雨
いつの間にか、領子は要人の腕の中に潜り込んでいた。


さすがにまずいよな……。

要人は、何食わぬ顔で、領子から離れようとした。

しかし、泣きながらしがみついてくる領子を邪険に扱うことはできなかった。

「領子さまも、わざわざお家元に習いに来るんや。」

「ええ。……我が家の者は代々宗和のお家元から直々に教わって参りましたので。わたくしのお母さまは、お嫁入り前に別の流派でお免状をいただいてらっしゃいましたけど、お父さまのお点前とあまりにも違うので、お父さまから教わってらっしゃいました。……お兄ちゃんも、別の流派をたしなんでらっしゃるのよね?」

領子にそう聞かれて、要人は苦笑した。

「たしなむっちゅうか……まあ、勉強させてもろてるわ。大奥さまのお茶会のお手伝いもできたし、よかったけどな。」


「……わたくしも、早く中学生になりたい……。」

ぽつりとそう言って……領子はじっと要人を見つめた。

至近距離で見るには、領子は美し過ぎて……。

要人は不自然に視線をそらした。


「領子さまが中学生になったら、俺は大学生やな。合格すれば、やけど。」

当たり前のことしか言えない自分が、滑稽だった。


まるで、純真無垢な童貞だな。


男子校に通っていても、要人はモテる。

それなりに忙しいので、めんどくさい乙女たちの相手はしてられないけれど、話の早いオトナの女とは共に夜を過ごすことが増えた。

一人暮らしの女子大生などは、恰好のお相手だ。

経験値を積み重ね、女子にドキドキすることなんてなくなったのに……この、目の前の領子さまだけは、いつまでたっても特別らしい。

子供だから、というわけでは、もちろんない。

主家の姫だから……。

そうかもしれない。


しかし、恭風に対するぞんざいさと照らし合わせると、その差は歴然だ。

理由はよくわからない。

わからないので、要人は領子になるべく近づかないようにしていた。


しょせん、別世界の姫だ。

領子さまには同じ世界の婚約者もいる。

俺とは、関係ない。


そう言い聞かせて、心と体を落ち着けたいのに……領子の信頼しきった、愛に溢れた瞳やほほえみは、いとも簡単に要人を揺さぶる。

私を見て!と、無言で訴えかけてくる。
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