いつも、雨
「お兄ちゃんが合格しないわけないわ。京大でも東大でも……どちらを受験されますの?」

キラキラと、領子の瞳が期待に輝いた。


要人は、息をついた。

「俺はどっちでもいいけど、学校は東大に合格してほしがるやろうな。……特待生は、学校の言いなりやから。……東大ちゃうか?」

「素敵!」

領子は、ようやく要人から離した両手を胸の前で組んでそうはしゃいだ。


この隙に……と、要人は、すっくと立ち上がり、ティッシュの箱を大奥さまのそばに戻そうと近づいた……ら……

「え?……大奥さま?」


当の大奥さまは、ニヤニヤ……と言っても差し支えない表情で、要人を見ていた。


「お目覚めでしたか。いつから……。お医者さまをお呼びしましょうか。」

「……。」

大奥さまは、ふにゃふにゃと何か仰って……口をへの字に結んだ。

思ったように言葉を出せないことに苛立ってらっしゃるらしい。


リハビリすればまた話せるようになりますよ……。


そう慰めたかったけれど、無責任なことは言えなかった。


要人はナースコールを押して、マイクに向かって言った。

「患者が目覚めました。主治医の先生とご家族にお伝えください。」

『はーい。すぐ行きます。』

明るい若い声がスピーカーから聞こえてきた。



「おばあさま……。よかった……。」

領子がそう言って、祖母の手をそっと握った。

……が、祖母は戸惑ったような、不思議そうな顔で……少し上半身を起こそうとして……諦めた。

そして、首だけ動かして領子の握っている手をじっと見つめた。


「おばあさま?」

領子の呼びかけに、祖母は目を閉じてしまった。

涙がみるみる溢れてきた。


領子は驚いたらしく、呆然としていた。


要人は、領子の背後から、ティッシュを1枚手にとって大奥さまの涙をそっと拭った。


……たぶん言葉だけじゃなく……半身の感覚がないのだろう。

半身不随……ということか。




すぐに、バタバタと足音が近づいて来た。

ドアが開き、領子の両親と、祖母の主治医、そして看護師が1人がやって来た。

要人は、黙って頭を下げると、ベッドから離れた。
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