いつも、雨
なぜか、領子もくっついて来た。

領子は蒼い顔をして、細かく震えていた。

……祖母の状況が芳しくないことを目の当たりにして、怯えているらしい。


要人は、誰にも見えないように、そっと領子の背中に手を宛がった。


温かい……。

領子の震えが止まり、表情が穏やかになった。


お兄ちゃん……。

大好きな要人にいたわられて、領子はそれ以上泣かなかった。





領子は両親とともに、京都の天花寺邸へ2泊した。

滞在中、要人は登校前や放課後、天花寺邸に立ち寄り、御用を勤めた。

……とは言っても、ここ数年、月に何度も来て宿泊している恭風が張り切っている。

さすがに家事は、通いのお手伝いさん任せだが、どこに何があるかは把握しているので、夜中に要人が呼び出されることはなかった。




天花寺一行が東京に戻るのと入れ違いに、「ねえや」と呼ばれているキタさんが派遣されてきた。

大奥さまのリハビリをお手伝いするためだ。

要人もまた、頻繁に病院へ行き、大奥さまの慰めとなった。




夏休みに入ると、すぐに恭風と領子も京都にやって来た。

退院した大奥さまは、気長にリハビリを続けながらも、自分の先行きについて深く考え始めたらしい。

「このまま京都で独り暮らしを続けるのは無理やわなあ。」

何となく鼻にかかった、危うい発音ながらも、話せるようになってきた大奥さまは、あきらめの言葉を口にするようになった。

「あと3年半待ってくれたら、僕、京都に住むで。」

そう言った恭風に、大奥さまは肩をすくめた。

「あんた、こっち来たかて、やれお舞台や、お茶や、……忙しいやん。」

「確かに。」

恭風はあっさりとうなずいた。


呆れたように孫を見てから、大奥さまは、静かな声で言った。

「まあ、そんなにもたへんわ。」

「おばあさまっ!」

領子が驚いて声を挙げた。


大奥さまは、目を細めて孫娘を見た。

「誰しもみんな死ぬわ。むしろ、死なへんほうが怖いわ。……心配事がありすぎて……不安やけどなあ……。」

しみじみそう言って、それから大奥さまは、不自由なほうの手を振って、要人を呼んだ。

少しだけ離れて座っていた要人が、遠慮がちに近づいた。
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