いつも、雨
三十代半ばにもなっても女っ気なし、仕事一辺倒の次男坊が、ようやく結婚する気になった。

たとえ相手がバツイチ子持ちでも反対はすまい……せめて、一夫を機嫌良く支えてくれればそれでいい……。


そんな風に思っていたのに、何もしない嫁では、話にならない。

せめて、なんらかの賛成できる要素が欲しい。


だが……

「仕事は今まで通り、いや、彼女と彼女の娘さんのためにも、もっと頑張るつもりや。でも、それは俺と店のもんでやっていく。俺は惚れた女を幸せにしたい!」


一夫の言葉に、家族はシーンとしてしまった。



……覚悟していたとは言え……本当に、バツイチ子持ちか……。

父は、苦笑すらできなくなってしまった。



長く重苦しい沈黙の後。

独り、これまで言葉を発しなかった母が、一夫に問うた。

「……あんたが持って帰って来たお茶碗……そのヒトのモンか?」


突然そう聞かれて、一夫は慌てた。

「ああ!そやねん。何かテンパってて、つい持って帰ってきてしもたわ。明日、返してくるわ。」


「……そうか……。」


母は、しばし考えて、それからおもむろに言った。


「わかった。結婚しよし。……おとうちゃん。双岡(ならびがおか)の倉庫。あそこ潰して、一夫の家、建てさせよう。あそこやったら、うちから、近くも遠くもないわ。ちょうどいいわ。」

「え!?いや、あそこは……」

反対しようとする兄の腕を、慌てて嫂が掴んだ。

姑に逆らわないでほしいという願いと、むさ苦しい義弟を厄介払いできるチャンスをつぶしてほしくなかった。


「ああ。ええな。あそこやったら、そこそこ広いし、事務所も茶室も作れるなあ。」


「……茶室……。」

武骨な息子の口から出たとは思えない言葉を、父は呆然と繰り返した。


「茶道の先生でもしてはるんか?」

母に聞かれて、一夫は首を傾げた。

「さあ?いや、でも、資格は持ってはるんちゃうか?お茶とかお華とか。……あ、そうや。もう1つ。苗字やけど、兄貴もいるし、わし、宇賀神じゃなくてもええやんなあ?」


父と兄の顔がクワッと険しくなった。

さすがに母の眉毛もぴくりと上がったが、悪びれない一夫を見て、ほうっと息をついた。

「……好きにしよし。」
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