いつも、雨
母の言葉を受けて、父がそわそわと立ち上がり、どこからか暦本を持ってきた。

「ちょうどええわ。今週の土曜日やったら、日がええわ。連れといで。」

「え。土曜は、わし、仕事やけど……。」

「昼にちょっと一緒にご飯食べるぐらいはできるやろ。……店、予約しとくわ。」


……母の一存で、一夫と領子は結婚に向かって一気に走り出した。




昼から、一夫は建築中の要人の本社に訪れた。

床の間の天井を網代に組んでいると、15時前に要人が顔を出した。


「お疲れ様です。どうぞ、休憩してください。」

毎日のように秘書が各所に缶コーヒーとおにぎりを配っていたが、今日は社長自ら様子を見に来たらしい。


タイミングの良さが、一夫を勢い付かせた。



「社長!竹原社長!話があるんですけど、ええですか!」

声をかけた一夫より、要人のほうが明らかに緊張していた。

「……宇賀神くん。……どうぞ。何か……現場に問題がありましたか?」

それでも要人は、笑顔を取り繕った。


「はあ。いや。仕事の話じゃないんです。個人的な話っちゅうか、報告なんですけど……」

「……報告……ですか……。」

要人の笑顔がひくりと引きつった。



……何を言い出すつもりだ……。

まさか、こいつ、マジで身の程知らずに……領子さまとつきあいたいとか言い出す気じゃないだろうな……。


ジロリと、いつもよりも偉そうに、要人は一夫を見下ろした。


一夫は、要人の射るような視線をものともせず、満面の笑みで言った。

「はい。社長のご紹介でお仕事させていただきました天花寺さんのとこの橘領子さんと、この度、結婚することになりました!」



……結婚……。


ドクンと、大きな鼓動が要人の中に湧き上がった。

グググッと、胸から、背中から……ざわざわと変な緊張感がこみ上げて来る。

リンパまで上がってきた気持ち悪さが、一時的に聴覚をおかしくした……かもしれない。


要人は、思わず右耳に手を宛がった。

「……失礼。よく聞こえなかった。……宇賀神くん……。結婚?領子さまと?……君が?……領子さまが、君と、再婚すると仰ったのか?」


いつもの憎たらしいほどの余裕は見えなかった。
< 352 / 666 >

この作品をシェア

pagetop