いつも、雨
あからさまに動揺している要人を見据えて、一夫は言った。

「はい!わしが……いや、僕が橘になります!両親の許可も得ました!えりちゃん……領子さんのお兄さんには、これから報告します!」


「……。」


言葉が出て来ない。


領子さま……。

いったい、どういうつもりだ……。

当てつけか?

やり過ぎだ。

シャレにならないだろ。



瞳孔が開ききったまま立ちすくむ要人に、一夫はぺこりと頭を下げた。

「生涯かけて、えりちゃんと百合子ちゃんを幸せにします!」


……笑わせるな。

お前なんかに、何ができる……。

腕がいいと言っても、所詮、ちっぽけな工務店の店主、大工の親方ふぜいで図々しい。

領子さまが……恭風さまが……納得するわけがない……。



「ほな、そういうことで。また、改めてご挨拶します。失礼します!」

言うだけ言って、一夫は仕事に戻った。


「……社長……。」

恐る恐る、秘書の原が声をかけた。


要人は血が滲むほど唇を噛んで……ようやく我に返った。

「領子さまのところに行ってくる。後は、頼む。」



目が血走ってらっしゃる……。

さすがに……引き止めても無駄か……。


原は、諦めて恭しくうなずいた。

後の予定をどう調整するか……考えると頭が痛かった……。








荒々しく玄関のドアが開いたのが、自室に居た領子にも聞こえた。

……お客さま……?

キタさんの声が聞こえる……。


ドタバタと足音が近づいて来た。


「なぁに?百合子なの?お行儀が悪い……」

領子は廊下に出た。



肩で息をした要人が、顔面蒼白で現れた。


「……どうされたの?こちらに来られるなんて。……もうすぐ百合子が帰って来ますわ。」

領子の言葉を無視して、要人は領子の両肩をガシッと掴んだ。


……痛い……。

そう、訴えることも憚られるほど、要人は切迫していた。


「宇賀神くんが……ずいぶんと荒唐無稽なことを言ってるのですが……本当じゃないですよね!?」

要人にそう問われて、領子は目を見開いた。


……宇賀神さんてば……竹原にまで言ったの……。

そう……。


不思議と、腹は立たなかった。

むしろ、領子は穏やかな気持ちで、怒りに震える要人を見つめていた。
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