いつも、雨
甘い花の香りの紅茶をポットからカップに注いで、要人は領子に手渡した。


「どうぞ。……散歩ぐらい、領子さまが望まれるなら、いくらでも。……なんなら、これから出かけましょうか?」

「……馬鹿ね。そんなことできるわけないでしょう。」 

領子は悲しそうに微笑した。


……要人に家族を大切にしてほしいと言ったのは領子自身だ。

どんなに要人と出かけたくても……人の目のあるところでは一緒にいられない。


「もう、充分です。……どうか、わたくしのことは、このまま捨て置いてください。……今まで、本当に、ありがとう。」

領子はそう言って、小さく頭を下げた。


「勝手なことを……。」

要人は、舌打ちした。


領子は黙殺して、お気に入りのティーカップに口を付けた。



「恭風さまがお許しなさるはずがない。」


要人の断言に、領子は苦笑した。

「ええ。わたくしもそう思います。……でも、宇賀神さんなら、なんとかしてくださるような気がしてきました。」


領子は要人に対して意地を張っているだけというわけではないらしい。

それがようやく要人にもわかってきた。


認めたくはないが……。



「あの男の、どこがいいのですが?……俺とは死んでも再婚しないと仰る貴女が……どうして、あの男を選ぶのですか?」


腕のいい職人だとは聞いている。

しかし、金持ちでも、イケメンでもなければ、気の利いたことが言えるわけでもない。

むしろ、世辞のひとつも言えない武骨な男だ。



本気で納得いかないらしい要人に、領子は少し首を傾げながら言った。

「……そうね……どうしてかしら……。最初は、竹原やお兄さまが、必要以上に宇賀神さんを貶めるから、判官贔屓だったかもしれないわね……。わたくしのお友達を悪く言わないで、って。」


……だろうな。

領子が後戻りできないところまで意地を張ってしまうことを熟知している要人は、だからこそ、口出しすることを我慢したのだが……



「でも、今は……そういうつまらないことをものともせず、笑い飛ばせてしまう宇賀神さんのモノの見方や考え方を素敵だと思います。……宇賀神さんとご一緒にいると、わたくしも、物事の見え方が変わるの。」



……別世界の人間が物珍しいだけじゃないのか……。
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