いつも、雨
要人の懐疑的な視線を、領子は笑顔で撥ね除けた。

「宇賀神さんなら、わたくしを、別の世界に連れ出してくださるから……かしら。」



要人は、何も言えなくなってしまった。

ただただ、憮然としていた。


領子に相応しい男になろうと努力してきた。

領子の生きる世界に堂々と存在できる男になるために頑張ってきた。


なのに……違う世界に連れ出してくれる男……だと?

……今までの俺は……俺のやってきたことは……無意味だというのか……。


は……はは……。


乾いた笑いがこみ上げてくる。




領子は、言うだけ言うと、再びティーカップを手に取った。

甘い香りを楽しんで……それから、要人に尋ねた。

「……さすがに、竹原に仲人を頼むわけにはいきませんよね?……実際、竹原のおかげで、宇賀神さんと出逢ったのですけれど。」

「……。」


要人は、怒りに震えて、両の拳を握った。


領子は気づかないふりをして、紅茶を飲んだ。



……できたら、百合子の帰宅までに、帰ってほしい……。


わざと挑発する領子の意図は、要人にもわかる。

わかるが……今、辞去するのは、領子を手放すことに等しい。


要人は、プライドをかなぐり捨てても、領子への執着を断ち切ることはできない。



「……わかりました。貴女が望むなら……宇賀神くんとご両親が了承されるなら、仲人でも何でもお引き受けいたします。」

絶対に、何があっても、領子さまから離れない。

そんな決意で、要人は、結果的に領子の再婚を受け入れた。



予想外の返事に、領子は戸惑った。


さすがに、他の男性と再婚すれば、要人との関係もそこで終わりだと覚悟していた。

それでも、なお、領子に執着するのは……ただ、愛と呼ぶには、偏執的過ぎるかもしれない。


ようやく、領子は気づいた。

とっくに、わたくしたち……社会的概念だけじゃなく、哲学的にも狂ってるんだわ。


「……そう。」

領子の目に諦めの色が広がった。


竹原から逃れられない……。

お願い……。

そんな、すがるような目で見ないで……。



視線を落とすと、要人の筋張った指が視界に入った。

その指が、どれだけ自分の身体を高揚させるか……翻弄させるかを生々しく思い出しで、領子の身体の奥が甘く疼いた。

身体が小刻みに震えた。


……心も、身体も……抗(あらが)いきれない……。

宇賀神さんと再婚しても、竹原にとっては、わたくしが拗ねている程度にしか思わないのかしら。

裏切りたいのに……断ち切りたいのに……。

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