いつも、雨
「では、私はこれで。……領子さま。それでは、詳しいことが決まりましたら、またご連絡ください。僭越ながら、できうる限りのご尽力をさせていただきます。……この度は、おめでとうございます。」

要人は立ち上がりながらそう言って、慇懃無礼にお辞儀した。


不思議そうに、百合子が母の領子を見た。


領子の頬がひくりと引きつった。


……竹原……確信犯ね……。


「……やめてください。まだ……そんな段階ではありません。今朝、お話をうかがったばかりで……娘にもこれからお話しするはずでしたのに……。」


領子の非難を受けて、要人は大仰に眉をひそめて見せた。


「それは、申し訳ありませんでした。……でもまあ、めでたい話ですから、お許しください。……では、私はこれで。」

それだけ言って、要人は本当に部屋を出て行ってしまった。



取り残された領子を、百合子がじっと見つめていた。

領子は、ため息をついて、娘に言った。

「……ここで待っていて。竹原をお見送りしてきます。」


「ええ。……わかりました。」


百合子を残して、領子は要人を追った。



玄関で靴を履いている要人に、百合子は目を三角にして小声で怒った。

「どういうつもり!?もう!余計なこと、言わないでよ!」


要人は、ふんと鼻で笑った。

「ただのイケズですよ。……私の腹立ちは、こんなもんじゃ、おさまりませんけどね。」

「イケズって……あなた……」


悪びれない要人に、領子は絶句した。


要人は誰も来ないことを確認してから、百合子の手を荒々しく引き寄せ、強引に腕に抱きかかえた。



キスが来る……。


思わず身構えた領子に、要人は顔を近づけて……至近距離からじっと見つめた。



そして、血を吐くように呟いた。

「このまま掠(さら)ってしまいたい。」


「……馬鹿ね。」

領子はそう言って、するりと身を交わした。


腕から逃れてしまった領子を、要人は未練がましく見ていた。
< 359 / 666 >

この作品をシェア

pagetop