いつも、雨
「もう、帰って。ごきげんよう。」

領子はそう言って、外を指さした。


要人の表情が歪んだ。


とても見てられず、領子はくるりと踵を返した。


「……それでも、愛しています。」

要人の低い小さなつぶやきに、領子の胸は締め付けられた。


涙がぶわっとこみ上げてきた。


わたくしだって……わたくしだって……


喉まで出かかった言葉と涙を必死に我慢した。


要人は、振り返らない領子の意志を確認してから、出て行った。


……これで、全てが終わった……とは、思わない。

でも、これまでと、同じというわけにはいかない。



ゴロゴロと、遠くのほうで雷が鳴った。


季節の変わり目……かな。

領子さま……。

……くそっ。

これで、何度めだ。

またしても、領子さまが他の男のものになるのを、指をくわえて見ていろというのか。



要人は荒ぶる気持ちを持て余し……会社にも自宅にも帰らなかった。

口がかたく、好きに放置させてくれる祇園の懇意のお茶屋で、しこたま酒を飲み、そのまま寝入ってしまった。






いっぽう、領子は娘の百合子に、今朝、一夫にプロポーズされたことを話した。

百合子はそれ自体には特に反応しなかったが、母が再婚するつもりでいることに、驚いた。


「もし、あなたがどうしても嫌だと言うなら、お断りします。」

母は百合子の意志を尊重する姿勢を見せた。


百合子はため息をついて、淡々と言った。

「どうぞ。お母さまの思うようになさってください。私は……極端に生活レベルが下がらなければ、それでけっこうですわ。」


そう言ったあと、百合子は少し考えて、恐る恐る領子に言った。


「あの……学校ですけど……今の学校から公立の小学校に転校してもけっこうですから、中学受験はさせてください。どうしても……行きたい学園があります。」


義人さんと同じ学園に通いたい……。

それだけを叶えてくれれば、後は、どうでもいい。


百合子の想いに不安はあるものの、領子は力強くうなずいた。


「それは大丈夫です。たとえ宇賀神さんが経済的に豊かではなかったとしても、問題ありません。わたくしにも蓄えはあります。あなたの学費も、花嫁道具も、少しも心配する必要なくってよ。」
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