いつも、雨
さすがに長い言葉を話すのは疲れるらしく、大奥さまは肩で息をしていた。

これ以上は、ご負担が多すぎる。


要人(かなと)は、うなずいて見せた。

「わかりました。大奥さまの仰るとおりにいたします。ですから、どうぞ、少しお休みください。」

「え!」

「ほんまか!」

天花寺兄妹が、小躍りして喜んでいるのを見て、大奥さまは満足げにうなずいた。


つまり、大奥さまは、自分のそばに俺を置きたいというよりは……孫たちの遊び相手としての俺をかってるわけか?

そう考えると多少おもしろくない気もしたが、要人は苦笑するにとどめた。


なんだかんだ言っても、自分をこうまで慕ってくれる主家の兄妹のことを、要人も嫌いなわけがない。

うれしいに決まっている。

いや……そんなものじゃない。


恭風(やすかぜ)には友情なようなものと同時に、芸に精進する姿勢には敬意すら抱いているかもしれない。

そして、領子(えりこ)に対しては……。


子供だ子供だとばかり思っていた領子さまも9歳だ。

予想を裏切らない美少女ぶりと、子供の頃から変わらない要人へのまっすぐな好意は、むしろまぶしい。

意識するなというほうが、無理だ。


……無理だ……。




大奥さまが目を閉じたのを確認すると、要人はそっと退出した。


京都の夏は、とにかく暑い。

天花寺家の邸宅は広い庭園があり、水辺を風が通るのでまだ涼しいほうだが……それでもエアコンがない部屋では、干からび出しまいそうだ。

大奥さまはもちろん、恭風と領子もエアコンの効いた涼しい部屋で過ごす。


要人は、今日のように動揺した時には、敢えて自然の風に吹かれた。



しかし……暑さでやられてるのは、何も人間だけじゃない。

庭の木々も草花も、元気がない。

土が乾いているようだ。


……打ち水でもするか。

さすがに500坪の邸宅の隅々まで、柄杓で水を撒くわけにはいかないし、その必要もない。

建物の周辺と、坪庭、そして玄関の戸から門までの前庭。

作為的な小さな空間は、人が水を撒かなければ枯れてしまう。
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