いつも、雨
……もちろん、要人は、とても使い切れない額の養育費という名目のお金を毎月振り込んでくれている。

それに、もはや銀行の小さい貸金庫には入りきらないほどの貴金属のプレゼントも、換金すれば小さな地方自治体の年間予算を超えるだろう。

すべて要人のおかげだ。


領子は、要人への感謝を心の奥底に秘めて、目の前の娘に言った。

「ありがとう。……宇賀神さんは、優しい家族になってくださると思います。では、明日、お返事しますね。」


百合子は、特に表情を変えることなく、うなずいた。




翌朝、一夫はいつも通りの作業着に、風呂敷包みを大事そうに抱えてやって来た。

「おはようさんですー。」


キタさんが、笑顔で迎え入れた。

「まあ、宇賀神さん。どうぞどうぞ。領子さまが茶室でお待ちですわ。」

「おおきに。お邪魔します。……あ、そうや!これ!……わし、昨日、茶碗を持って帰ってしもてんけど……」
しどろもどろの一夫に、キタさんはふふっと笑った。

「領子さまも、お気づきですよ。さ。どうぞどうぞ。お上がりになって。」


キタさんは一夫から風呂敷包みを受け取ることなく、茶室へといざなった。


「……失礼します。おはようさんです。」

茶室の戸を開けて、一夫は頭を下げてそう挨拶した。


「おはようございます。宇賀神さん。どうぞ。お入りになって。」

穏やかな声に、ホッとして顔を上げた。


領子は、淡い縹色の付け下げを着て座っていた。


……ああ、……きれいや……。

一夫は、着物姿の領子に見とれた。


領子は、くすりと笑って、それから居住まいを直して、改めて両手をついて頭を下げた。

「昨日は、ありがとうございました。もし、お気持ちにお変わりがありませんようでしたら、……あの……ふつつか者ですが、よろしくお願いします。」


「えりちゃん!!」

一夫は飛び上がりそうになった。


まさか、領子のほうからその話を切り出してくるとは思わなかったし、ましてや、いい返事をもらえるなんて!

一夫はドカドカと茶室に入り、領子の前に座った。


膝がくっつきそうな至近距離で、一夫は……領子に触れようと手を出しては引っ込め……ためらいを見せた。



……どうしたのかしら。


不思議そうに領子が首を傾げた。

「……お返事は、いただけませんの?」

催促すると、一夫は慌てた。
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