いつも、雨
「返事て!そんなん、決まってるやん!わしが結婚してほしいってお願いしたんやん!……いや、でも、そうやな、ちゃんとひとつひとつ言葉にしていかんとあかんな。おおきに。ありがとう。すっごくうれしいわ!ありがとう!ほんまに、ありがとうな!」

そう言って、一夫は両手で領子の手を取って、ぶんぶんと上下に振った。


領子はにっこり笑った。

「……よかったぁ。ご家族に反対されませんでしたか?……わたくし……ご挨拶にうかがいたいわ。」


前向きな領子に、一夫は目頭が熱くなるのを感じた。


「大丈夫や。まあ、えりちゃんがどんな子ぉかわからへんから、最初は心配したやろうけど、おかあちゃんが……あ!そや!これ!堪忍!めっちゃ大切なもんを、わし、持って帰ってしもてんなあ。すんません!」

一夫は慌てて風呂敷を解き、領子に真新しい白木の箱を差し出した。


わざわざ、桐の箱を作ってくださったのかしら……。


「あら……ご丁寧に、どうも……」

「おとうちゃんが作ってくれた。……おかあちゃんが、ええもんやから、って。」

「……お母さま、よくご存じですのね。」


一夫は曖昧な表情で黙った。


……母親に口止めされたが……一夫の母は、茶碗をわざわざ懇意のお茶の師匠に見てもらってきたらしい。

専門家ではないので、精巧な贋作でないとは言い切れないが、見たところ本物の仁清に見える……と、師匠は最初に言ったらしい。

さらに出処を聞かれて、一夫から聞いた情報を伝えた。

京都の元お公家さんのお家のものらしい、と。

すると、すぐに師匠は天花寺(てんげいじ)家のものだと理解した。

そう親しいわけではないが、茶席や会合で、師匠は恭風と言葉を交わしたこともあるらしい。

「ご当主は今時珍しい風流人でいらっしゃいます。天花寺家の茶碗なら、むしろ故事来歴のしっかりした時代物しかありません。……私が箱書きなんぞしては笑われますよ。……残念ながら、私どもの流派ではありませんし……触らぬ神に祟りなし?」

師匠は言葉を濁したが、かつて恭風にやり込められたことがあったそうだ。


一夫の母は、その足で図書館に寄り、華族家系大成や古い人名録を片っ端から繰った。
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