いつも、雨
そして、理解した。

冴えない中年職人でしかない次男が、出戻りとは言え、かつては皇族とも行き来のあったバリバリの貴族の家柄のお姫さまと結婚する気らしい。


よく……まあ……。

いったい、どんなお姫さまだろう。


橘家に嫁いだ領子(えりこ)という、次男の一夫より1つ年上の女性が、百合子という女の子を産んだ……ことまでは、調べられた。

橘家と言えば、旧財閥系の、これまた名家だ。

何不自由なく暮らしてただろうに、よりによって、財産もない、洒落た遊びもできない、真面目一徹な次男と再婚なんて……本気だろうか。


知れば知るほど、一夫の母は、不思議に感じた。

でも、考えようによっては、こんなにすごいご縁はない。

お茶の師匠のあの反応……。

一夫の仕事のみならず、うちも恩恵を受けられるかもしれない。


浮き足立った母に、一夫は背中を押されてやってきた。

事態は、一夫の思う以上に、とんとん拍子に進みそうだ。


「今週の土曜日、一緒に昼飯食おう。家族も、えりちゃんに会えるんを楽しみにしてるから。……百合子ちゃんも一緒に来てくれはるやろか。」


領子は首を傾げた。

「たぶん、無理ですわ。日曜日に模擬試験があるとかで、土曜日は朝から塾で勉強してて。……あの……先にわたくしだけではいけませんか?」


……本当に、一夫の家族が自分を受け入れてくれるつもりなのか……領子は不安だった。

単に子供を連れて離婚しただけでも外聞はよくない。

ましてや、現在の領子は、要人に囲われているといっても過言ではない。

もっと言えば、百合子の父親は離婚した夫ではなく、不倫関係にあった要人だ。

一夫は、要人との関係は知っている。

しかし、百合子の父親については……。


万が一にも、一夫たちにそれを追及されたら、領子には嘘をつく気はない。

しかし、百合子には、まだ、知られたくなかった。


「いや。ええと思う。これからなんぼでも機会はあるねんから。そや。家やけどな、双岡(ならびがおか)にうちの倉庫があるんや。そこをつぶして、新築するつもりや。どんな家がいい?」

一夫は、笑顔でそう聞いた。


「まあ。双岡ですか。……確か、かつては、うちの所領もあったと聞いています。うれしいわ。」


領子も、笑顔になった。


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