いつも、雨
土曜の11時半。

一夫が領子を迎えに来た。

いつもの作業着ではなく、一応ジャケットを着用していた。


「ごきげんよう。……今日は……ご自宅に連れてくださるのではありませんの?」


一夫はきょとんとして、首を傾げた。

「へ?なんで?」

「……あの……宇賀神さん、お洒落してらっしゃるので……」


言ってて、笑えてきた。

お洒落というほどお洒落ではない。

でも、作業着以外の格好を見たことがなかった領子には、新鮮に見えた。


一夫もまた、照れくさそうに笑った。

「確かに。……これ、兄貴の借りてきてん。わし、服とかよぉわからんから。……おかあちゃんが張り切って、嵐山の料亭を予約してんて。作業着で来るな言われたんや。」

「嵐山……」

領子は笑顔を貼り付けたまま、固まった。



今では代表的な観光地の嵐山は、もともとは都人の別荘地だった。

歴史的な建造物や、老舗料理旅館は枚挙に暇がない。

でも、わざわざ、「張り切って」予約する料亭と言えば……。



「あの、わたくし、ご自宅にお伺いするつもりで、地味な着物を選んだのですが……ちょっと、着替えてきてよろしいですか?時間はかかりませんので。」

慌てる領子に、一夫は驚いた。

「へ?なんで?……地味って……振袖やあるまいし、オトナの着物てそんなもんちゃうの?」



領子は、利休白茶の訪問着を身につけていた。

派手過ぎないように、華美過ぎないように……一夫の自宅で浮いてしまわないようにとの配慮だった。


しかし紅葉の色づき始めた嵐山の一流料亭には、相応しくない。


「時間ないし、それでかまへんて。」


急かす一夫にオロオロしていると、キタさんが慌てて羽織を持って来てくれた。

薄紅色の、ところどころに絞りの入った羽織は、適度に華やかで、それでいて主張しすぎず、上品にかわいらしさを演出した。


「ありがとう。キタさん。いってまいります。」

涙目で大好きなねえやに、感謝を伝えた。
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