いつも、雨
秋の土曜日、さすがに嵐山への道はそこそこ、こみあっていた。

……かつては、たびたび竹原に連れて行ってもらった嵐山……何年ぶりかしら。

気がつけば、すっかりご無沙汰だ。

立場上、一緒に外を出歩けないということもあるが……なによりも、今や要人が家族と住まっている土地だと思うと……領子は、他の用事があっても、足を踏み入れる気になれなかった。



「そんな緊張せんでええで。みんな気さくやし。えりちゃんに会えるん、楽しみにしてるわ。」

一夫は呑気にそう言った。


「……わたくしは、楽しみより……不安ですわ。……お着物も……最初から、ご自宅ではないとうかがってましたら、ちゃんと選べましたのに……。」

領子は、愚痴というよりは、弱音を吐いた。


泣きそうになっている領子に驚いて……一夫は謝った。

「ごめん!よぉわからんけど、えりちゃんにとって、今日の格好は不本意なんやな!悪かった!ほな、今度からは、事前にちゃんと言うから。泣かんといて。」


……今度から……。


そんな風に言われては、いつまでもメソメソしてられない。


領子は、ハンカチで目尻をそっと拭ってから、運転中の一夫が信号で止まって、領子を見てくれるのを待って、笑顔を見せた。

「はい。よろしくお願いします。……これからは、わたくしだけでなく、宇賀神さんの身につけるものにも気を配りたいと思っています。ですから、何でも、おっしゃってください。」

「えりちゃん!!!」

一夫は、がばっと領子を横から抱きしめた。


お互いに反対側からシートベルトで引っ張られての抱擁は苦しかったけれど……心がぽかぽかした。


……自宅で、クマの着ぐるみパジャマとか、着てみてくださらないかしら……。

そんなたわいない想像で、領子は楽しくなった。




到着した料亭は、よくよく知っているところだった。


まあ……そうよね……。


隣接はしてないものの、要人の自宅と目と鼻の先。

一夫もそのことを知っているはずなのだが……特に態度を変えることなく、領子の足元を気づかってくれた。


「そうだわ。これ。……手土産のつもりでしたが、荷物になってしまいますので、宇賀神さんにお預けしてよろしいですか?」

領子は、大事そうに持っていた風呂敷包みを一夫に託した。


「おおきに。でも、これっきりな。もう家族になるんやし、気ぃつかわんといて。」

「……あら。家族でしたら、みなさまの好みをリサーチして、ますます、喜んでいただけるお土産を探しますわ。」


領子にとって「お土産」は特別な意味を持つ。

大事なひとへの親愛の情の表現であることを、一夫はまだ知らない。
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