いつも、雨
……いや。

一夫と領子は、互いのことを、まだほとんど何も知らない。

誰に紹介されたわけでもなく、自然に惹かれ合い、結婚するのだから、恋愛結婚のはずなのだが……。





……なるほど。

浮き世離れしたはるわ。

全然ベクトルは違うのに……割れ鍋に綴じ蓋?

意外とうまくいかはるんかもしれへんなあ……。

一夫の母親は、領子を、そして2人の様子を観察して、明るい気持ちになった。


よござんす、さしあげましょう……と、夏目漱石の「こころ」のセリフが喉まで出かかった。

まあ、一夫は次男だし、宇賀神の姓ではなく「橘」という姓で戸籍を作るというのなら、嫁を貰うのではなく、婿に出すということになるので、間違ってはいないだろうが。




「あの……領子さんの御両親は既に亡くならはったゆーことですが……お兄さんは……その……反対してはらへんのですか?」

酒がほどよくまわったらしく、それまで領子の美貌にデレデレしていた一夫の父が、ようやくまともなことを尋ねた。


領子は緊張して、背筋を伸ばした。

「……はい。あの……これから、時間をかけて説得していきたいと思っています。」


慌てて、一夫が口を出した。

「明日、行ってくるわ!東京!大丈夫や、打合せでも現場でも、何べんも話してるけど、お兄さん、めっちゃこだわりの強いエエ人や。えりちゃんのこと、すごく大事に思ってはる。……せやから、えりちゃんと百合子ちゃんが幸せやったら、いずれは認めてくれはるわ。」


実に暢気な弟に、一夫の兄は呆れた。

「おいおい。悠長やなぁ。ほな、結婚式はどうするねん。新婦の実家からの出席者ゼロでは格好つかへんやろ。」

「結婚式……。」

領子の頬がほんのりと色づいた。


まさか、2度めの結婚式を挙げることになるとは思わなかった。

いい年して、しかも子持ちの身で……とは思うものの、一夫の実家がお商売をしていることを考慮すると、結婚式も披露宴もしないわけにはいかないのだろう。



「仲人さん、頼むか。形だけやなくて、本来の意味での仲人さん。うまくまとめてくれはるひと。……誰かいはるか?お兄さんが頭、上がらへんヒト……。」

一夫の父にそう問われて、領子は少し考えた。

「兄の、芸事の師匠のどなたかにお願いすれば、とりなしてくださるかもしれませんが……兄と価値観が似たかたが多いので、難しいかもしれません。……少し御高齢で申し訳ないですが、お茶の宗匠でしたら、わたくしもずっと教わって参りましたので、お口添えしてもらえるかも……」

「竹原さん、どやろ。」

不意に一夫が要人の名前を出した。
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