いつも、雨
「……わかりました。では、後でお部屋にお届けしますから、どうぞお戻りください。」

要人はそう言って、ていよく領子を追い払った。


領子は、上機嫌でぴょんぴょんと跳ねるように飛び石をつたって戻ろうとした。

……と、濡れた石に滑ったらしく、領子がバランスを崩してしまった。

「危ない!」

「きゃっ!」

慌てて、要人は領子の腕を引っ張った。


軽い……。

勢い余って、領子は要人の胸に飛び込んで来た。

ふわりと心地いい香りが要人の鼻孔をくすぐった。


「大丈夫ですか?」

そう尋ねると、領子の頬がぶわっと赤く染まった。

目まで赤くなったところを見ると、泣きそうなのか。

そんなに怖かったのか?


領子は、ぎゅーっと要人にしがみついたまま、泣きべそをかいて訴えた。

「足首……痛いの……。」


「……捻挫でもしてしもたんかな。……どれ……。」

要人は、領子を引き剥がして、屈もうとした。

でも領子は腕にぎゅっと力を入れて、離れようとしなかった。


……また……か。

要人は天を仰いで息をついた。

「……領子さま……、足、見てさしあげたいんですけど……。」

「あの……捻っただけだから、冷やせば大丈夫……ですけど……あの……今は、動けないんです……。」


支離滅裂だな。

単に、要人にくっついていたいだけ……なのだろう。

やれやれ。

かわいすぎるだろ……もう………………。



「わかりました。でもこのままココに居るわけにもいかないでしょう。……あれ?今、ぱらっと来ませんでした?……雨?……今、水撒いてるのに、夕立か!?」

「……そう言えば、ヒルガオって『雨降花(あめふりばな)』とも言うんですってね。」

飄々とそんなことを言って、領子は空を見上げた。

「青空ですわ。」


つられて、要人も空を見た。


真夏の青い空に、白い入道雲。

雨雲らしきものは見えない。


「……蝉のおしっこやったかな?」

頭を掻いてそう言うと、領子がぷぷっと笑った。



結局、要人は領子をお姫さま抱っこして、母屋へと運んだ。

「前にもこんなことありましたね。」

うれしそうに領子が言った。

「あー、そやな。……あの頃より、領子さま、大きくなってはるのに……重くは感じひんわ。むしろ軽すぎるわ。もっと食べないと。」

普段から食の細い領子を心配して、要人はそんなことを言った。
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