いつも、雨
…なるほど……本人の思慕や未練は金で黙らせられても、周囲との軋轢は配置換えや出向という形で消火するしかない。

もっともだ……。


要人は、以後は玄人の女性のみに手を出すことにした。


だが玄人と一言で言っても、学生バイトに毛が生えたようなホステスの行儀の悪さには閉口した。

自宅に嫌がらせの電話や手紙を送りつけるというような、不倫感覚にはとてもつきあいきれない。


結局、昔からの紳士の社交場……上七軒、祇園甲部、宮川町、先斗町、祇園東の五花街にそれぞれ1人ずつの女性と懇意になる形で落ち着いている。


領子の言う芸妓は、芸能人との浮き名で一躍有名になった先斗町の名物芸妓だ。


「アレには、他に男がいたんですよ。彼から別れてほしいと頼まれましてね、私がアレに別れを切り出したら、なぜか、手切れ金を請求されましてね。思い出をください、だとさ。うちの新築中のマンションがいいっていうから、一部屋やったら、今、また別の男と同棲してるそうだ。」

「……思い出……。ちゃっかりしてらっしゃるのね……。」

それ以上、何も言えなくなってしまった。



竹原も竹原だけど……その女性もなんだか……ひどいわ……。

おかわいそうな、奥さま……。

どうしてこんな男を、思い切れないのかしら。


……いいえ。

それは、わたくしも、同じね……。


領子は、うつむいて……そして、泣きそうな声でつぶやいた。

「わたくしも、思い出にしてしまいたいわ。」


要人は、意地悪くほほえんで、それから領子の指をからめ取るようにしっかり手をつないだ。


……思い出になんかさせない……。

絶対に、手放さない……。


言葉にしなくても、充分過ぎるほど伝わってくる強い想い。

領子は脱力し、要人に誘導されて、再びその胸に抱き寄せられた。


甘美な毒に侵されている。

わたくしも、竹原も……。

いつになったら……冷めてくれるのかしら……。


そんな日が決して来ない確信から、領子は目をそらした。


……こんな関係が一生続くなんて、想像するだけで息が詰まった。





東京駅で、要人が待機させていた車に乗り込んで、領子は一足先に天花寺邸へと赴いた。

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